これほど立派な墓穴を掘ってもらえたのはハッピーが初めてです。もうすぐ生後14年目に入りますが、長生きしてほしい、と思います。
このおまじないは、伊藤忠を辞めた34年前からに始めています。辞表を受理してもらうのに11カ月以上かかってしまい、いろいろなことを考えたおです。
依願退社は退職金を満額くれません。その300万円を3等分し、その1つで墓地を買い、もう1つで井戸を掘りました。それは体が弱いと思い込んでいた両親のためで、今「買っておかなければ」あるいは「水を確保しなければ」と考えたものです。
妻は逆に、「いざという時はここで会えるのですね」と私の身を(いつ旅先からいつ訃報が届かないとも限らないと)思っていたようです。ハイジャックの多い頃でしたし、電話もつながり時代でした。40日で欧米の20前後もの都市を駆け巡る出張さえ毎年していました。
それが良かったのか、「いつ死ぬかわからない」と心配していた両親は「なんと!」、共に享年93歳まで生きました。転勤はもとより「海外駐在や留学も断って来たのに」と思いました。
おかげで私もまだ生きています。いろんな方に縁をもらって、幸せに生きています。それもこれも、墓地や、墓の用意や、死を覚悟しておくことがよいのでは、といつしか考えるようになっていたのです。
そのころから、死期が近づいたと思う愛犬の墓穴を前もって用意するようになっています。まともに歩けなくなったハッピーですが、ジンクスに従って、長生きしてほしい。
木曜日に、折に触れてハッピーの姿を追いましたが、鎖を解いてやって「よかった!」と思いました。何を頼りにしているのかはわかりませんが、目が見えないのでおぼつかない足取りなのに、それぞれ(日当たりや風などの様子から見て)適切な場所を探り当てて移動しており、その感受性に感心させられます。
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