金太は情けないことに
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金太はとても賢い犬です。用心深い犬です。散歩中にリールのひもを絡めて途方に暮れることがまずありません。ハッピーのようにいい加減なものを食べて、吐いたり下痢をしたりすることがまずありません。度胸もあります。ハッピーのように、妻が赤いバケツを持っているだけで怯ええるようなことは、いっさいありません。 にもかかわらず、ハッピーには頭が上がらない。子犬の時は金太の方がたくましく、リーダーシップをとっていたのに、その後逆転しました。その時の状況をよく覚えています。 この2頭を、鎖につなぐ頃から、性格と役割の関係で20m以上離れたところで飼うことにしており、散歩も個別にするようになっています。金太は人には吠えかからない性格でしたから、門扉近くの小屋で飼い、あらゆる来客に愛され、ペットにしてもらう役目を与えました。ハッピーは気が弱くて、小さくて、寂しがりや、その上に猜疑心も強いのか、住人以外には誰かれなく吠えかかる性格ですから、居間の前に住まわせて、番犬にしました。 散歩をするときは、ハッピーは(門扉を通って外出する前にかならず金太の小屋の側を通りますが、横見をせずに)金太の存在を無視したかのごとくに一目散に通り過ぎていました。金太は声さえ上げずに、それを見送っていました。逆にハッピーは、金太を散歩している間中、鎖を切らんばかりに興奮し、吠えまくっていました。 ある日のことです。散歩の帰路で、ハッピーが金太の小屋の方にさまよい込み、金太と鉢合せするような状況となりました。その時に(金太は予期して尻尾を振っていたように思いますが)、あわてたハッピーは、唸って金太に襲い掛かったのです。金太は尻尾を巻きました。 妻は慌てて「兄弟でしょう、ハッピー」とたしなめていますが、ハッピーは金太と双生児のようにして育てられたことをすっかり忘れ去っていたようです。この時から、ハッピーは、金太と接触した折は、威嚇する唸り声を上げるようになり、金太は「かなわんな」といった顔で、避けるようになっています。それは、ハッピーとケンの関係でも同様で、ケンと金太は仲良しで、じゃれあっていました。 金太が辛抱できることを、ハッピーは制御できないことがよくあります。金太は、本能が退化したのではないか、と思わせられることがありますが、ハッピーは逆です。 例えば、アブラゼミ。アブラゼミはうまく飛べずに地べたに突撃(墜落?)することがあります。金太の側に墜落すると、金太は「厄介だなア」とでも言った顔で、放っておかれます。ハッピーの側に墜落使用ものなら、瞬時にハッピーにかぶりつかれて食べられてしまいます。 それはさておき、ハッピーが全盲になり、ヨボヨボになってしまったときい、そしてフラフラっとハッピーが金太の側に与太ついて近づいても、金太は攻撃しませんでした。それも、金太は昼寝中に起こされたとときも、うまくいなしています。ですから「いい子だね、金太」と褒めていました。ところがハッピーは、チョッと元気になり、勝手に金太の側に近づいていながら「ウゥー」と下品な唸り声を、かつてのように上げ始めたのです。 ハッピーのような人がリーダ-になれば、やたら仮想敵国を作るなど、国民はたまったものではないな、と思わせられますが、困ったことに、私たちはケンがいた頃は3頭とも可愛く思っていましたし、2頭となった今は2頭とも可愛い。 ちなみに、ハッピーは今、実に上手に居場所を定めはじめています。ケンの小屋を「夏の館」にと考えて、母屋の北側にある植え込みの木陰に移動させてありますが、寒い夜はここに入ってやすんでいます。そして、陽が射し始めたら、フラフラっと出てきて中庭を横切り、私たちの居宅に移動して陽が射す所定の場所にたどり着き、うたた寝を始めます。 金太は金太で、妻流のやり方に甘えながら、一番の長寿を記録してくれるのでは、との期待をさせてくれています。妻のことですから、私が制止していなければ、冬場は犬を屋内に入れかねない人ですが、「ならば」とばかりに、落ち葉を敷いてやったりするのです。 私は、その場その時のことぐらいは辛抱し、それをむしろテコにして、ボケずに、いかに長寿を全うしてくれるか、に興味があります。その見極めが人生サ、とさえ思っています。 |
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寒い夜はここに入ってやすんでいます |
所定の場所にたどり着き、うたた寝 |
金太 |
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