今日、国立歴史民俗博物館には「野村コレクション」として著名な小袖屏風が収拾されています。このコレクションが誕生した背景には、過日触れた「10銭と10円」の逸話が関わっていたのです。アイトワ塾生の野口誠さんは故あってこの事実に詳しいのですが、過日教えてもら
いたいものです。そのおりに、価値とは何か、真の価値の発見とはいかなることを意味するのか、ということを改めて考えさせられています。
「野村コレクション」を収集した人は京都の美術商家に生まれた「野村正二郎」ですが、野村家の商売を取り仕切っていたのは母親の「志て」でした。この母親のヒラメキと、息子の育て方は尋常ではなく、真の価値の発見も、価値の創造に近似する、と思わせられています。
志てが美術商として大成した画期的な出来事が「10銭と10円」でのヒラメキでした。彼女は悠々自適の身でありながら、家の中でジッとしておれず、南座の近くに小さな店を出し、生家の家業である呉服商に倣って東洋趣味の小物を売り始めています。その過程で「10銭と10円」の出来事に遭遇し、ヒラメキを得て、この価値を広める商いに集中しており、またたく間に大地主となり資産家になっています。
正二郎は17歳の時に英語の習得を望み、アメリカ留学を母に願い出ています。その際に、母親はお金ではなく、数枚の浮世絵版画を持たせました。これを売って学費や生活費に充てさせています。正二郎はやがて、近世小袖の美術的価値や歴史的価値を見出したわが国最初の人となり豊かになっただけでなく、「野村コレクション」を後世に残しています。
こうしたコレクションの国家的収蔵も、つまり価値の発見も、国家の真の安全保障を考える上でとても大切な時代になるのではないでしょうか。里山や里海に住まいを、風光明媚な環境を創出しながらおだやかに暮らす人たち。職人は競って、資材や素材を最少で済ませながら芸術品のような生活物資を生み出す。そうした環境や芸術品のごとき生活物資を次々と生み出し、集積する国になれば、他国まで攻撃できる武器など不要になるはずです。世界中の人が日本を守ってくれることでしょう。
これからの時代は、こうした時代を目指すべきです。その気になれば誰にでもやれるやり方で、まず自分たちが幸せになって見せるべきです。それが、国民レベルでヒトから人への脱皮を促しそうに思われてなりません。
写真は、束ね熨斗模様振袖(江戸時代)重文
1921年に、ジョン・D・ロックフェラーJrが訪れ、この品を購入したいと申し込んだという逸話も残っている。
もちろん、庶民の日常品であった藍染の品々なども、とても高く評価されています。
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