多様多彩

 

 妻に与えられた課題は、ピザ窯で「焼いた野菜に用いるソース」と「ピザの生地」を用意しておくことでした。そのピザの生地づくりで、気に入ったものができず、妻は再挑戦して望みました。スーパーシェフ・堀口博さんは、まず妻が気に入らなかった生地の補修から始動その原因の追及や、プロは食材を無駄にはしていけないとの教訓●など、多面的な指導を受けており、妻と義妹は瞬時にしてココロを鷲掴みにされていました。その奥さんの、心憎いまでの気配り手配りにも感心したようです。もちろん、その様子を垣間見ていた私は、久方ぶりに覚えたような感動に不思議な気持ちにされています。

 今さらながら、未花ちゃんも見直しました。たとえば、私などは叱られると、叱られたことが気になって、固くなったり膨れたりしがちですが、彼女は叱られた内容をキチンと受け止め、その意図を消化し、真剣に理解しようとしていました。そのおかげでしょうか、十分時間をかけて個人指導も受けています。

 哲範さんは、与えられた3つの課題だけでなく、虫押さえ(小腹が空いたとき)用に餃子とシュウマイも用意していましたが、その出番はありませんでした。それだけでなく、課題の1つであったライスカレーを出すタイミングも見失っていました。

 でも、課題に取り組み、その成果として用意した品々について、意図したところなどを披露してふるまい、拍手を受けていました

 この窯に初めてダッチオーブンが入りました。スーパーシェフがダッチオーブン料理を用意されてきた一品があったからです。それもあって、この窯を手作りした私の目にも、望ましき窯の活かし方がおぼろげに見えてきたような気分にされました。

 この日の私は、朝一番から「場作り」のための作業の後、9時からピザ窯に火を入れました。12時までに窯を温め上げておこうと思ったのですが「甘かった」。気に入ったように温まったのは5時過ぎであり、8時間近くかかったことになり、薪を1束用いています。

 もちろんその間の、12時頃からピザを焼き始めており、夜の10時まで窯を用いていますが、さまざまなことを学んでいます。最上級の薪を用いたのですが、電気やガスとは比較にならぬ、次元を異にする、薪で温める窯の難しさをいやになるほど思い知らされました。

 それはともかく私は、不遜ないい方ですが、堀口博さんを心ひそかにパーシェフと思って来ましたが、まさに「並みはずれたシェフ」を「超えたシェフ」だと感服しました。きっと妻と義妹、そして未花ちゃんの3人は、私以上にはその認識を心に刻み込んだことでしょう。もちろん、哲範さんは、それ以上のインパクトを受けており、この半日と、2日前の半日で生じたことを反芻しながら、ジワジワと心にその認識を刻み込んでいることでしょう。

 どうして私が私淑したくなる人は、こうも世間の評価が2分されるのでしょうか。堀口博さんも、妻を始め、義妹や未花ちゃんにとっては限りなく優しい人であるわけですが、この人を苦手にしたりとても怖がったりする人もいるようです。

 その是非はともかく、私の私淑したくなる人は、徹底した一面をお持ちであるように見受けられることです。その一面が、私の目から見ると間違いなく未来志向であること、しかもその未来が未来世代の共感も得られそうだと思われるところに惹かれるのです

 その小さな一例を、研いで、研いで小さくなった1丁の包丁にも見出しました。

 この日、「並みはずれたシェフを超えたシェフ」から私は「手間」の何たるかを学べたように思っています。その手間の神髄を見抜く力が、その何たるかを会得することが、「ヒトを人にする主要な要素の1つ」ではないか、と思わせられ始めています。

 とにかく「爽快とはこういうことか」と思われるほど心地よいビッグな(半日+半日の)1日でした。この日は、初対面のご夫妻にも巡り会えましたが、とても心惹かれ、心地よかった。こうした人たちが繰り広げる一泊2日のキャンプがある、と網田さんから聞きました。その誘いを受け、1も2もなく参加させてもらうことにしています。

 

生地の補修から始動

その原因の追及

食材を無駄にはしていけないとの教訓

真剣に理解しようとしていました

十分時間をかけて個人指導

意図したところなどを披露してふるまい、拍手を受けていた

意図したところなどを披露してふるまい、拍手を受けていた

研いで小さくなった1丁の包丁