花子の親友「白蓮」(息子は大学生に、娘は女学生になっており、日中戦争が始まっている)の家に、花子の「兄ヤン」をリーダーとする憲兵が踏み込みました。白蓮の夫は家族には内緒で、日中和平工作のために中国に渡る画策をしていたのです。白蓮は憲兵のリーダーが顔見知りの兄ヤンであったことに気付き、驚きます。
実はこの日の前夜、兄ヤンは花子を居宅に訪ねており、「白蓮に近づくな」と忠告しています。花子は逆にそれが気になって、翌朝早速(つまり当日)白蓮に電話を入れ、花子の家に訪ねてもらって会う約束をしています。白蓮がこの出掛ける準備をしている最中に兄ヤン一行が踏み込んだのです。
兄ヤンは、引率した数名の憲兵に家宅捜査に入らせ、自らは在宅中の夫の胸倉をつかみあげて捕まえ、低い声で次のような言葉を夫に投げかけ、夫はそれに即応します。
「まず守るべき人(家族)がいるだろう」
「国がドンドン怪しくなっているのに、そんな呑気なことを言っておれるか」
夫は連行されることになり、門口ではそれを見送る野次馬から口々に、
「売国奴」「国賊」と罵声をあびせられます。
丁度その時に息子は下校してきました。そして母に問いかけます。
「お父さんは何をしたのですか」「国賊なんですか」
他方、花子は約束していた白蓮が約束の時間になっても現れず、電話にも出ないので心配になり(夫に伴われて)白蓮の家を訪ねますが、意外な言葉を親友から浴びせられます。
「あなたがお兄さんに話した(私の夫を売った)のね」
その後、白蓮の息子は父を売国奴と見るようになり、志願兵となることを願います。
このドラマには女性の流行作家が登場しており、従軍作家として活躍します。これは林扶美子ではないでしょうか。彼女は『北岸部隊』の中で、硝煙の中を征く皇軍兵士の緊張感に満ちた姿に「美しさ」だけを感じ取っており、中国兵のボロ布のような死骸には何の感情も動かしていなかったように思います。
戦時中の雰囲気を私はありありと思い出させられました。誰しもが「お国のために」と躍起になっていました。わが家では、父は壁に大きな世界地図を張っていました。その地図に小さな日の丸がついた虫ピンを、ラジオに耳を傾けながらここかしこに刺し足していました。万歳の声や、エプロン姿のおばさんの姿が日常的に見られました。
私は幼いながらに、こうした雰囲気を強烈に記憶しており、居間の日本は「似てきたなア」と感じています。思えば、こうした時代のありように疑問を抱いたり、打開策を願ったりした人たちは「売国奴」や「国賊」と見なされかねないのでしょう。
なぜなら、日本は戦時中に「売国奴」や「国賊」と叫んで痛めつけた人の名誉を回復させておらず、今も浮かばれていないように思われてなりません。間違いなく安倍総理は、今も「売国奴」や「国賊」と見続けているのでしょう。ですから逆に、こうした人を酷い目に合わせたり、拷問死させたりした人たちを、「今日の平和と繁栄のため、自らの魂を賭して祖国の礎となられた昭和殉職者」として讃えるわけですから。しかもその総理が、なぜか結構カッコウよく見られており、人気を得ているように見受けられます。
水野広徳という人がいました。第一次大戦時で貢献し、海軍大佐になった軍人です。その後、平和主義者に転じていおり、日本が太平洋戦争に踏み出す中にあって次のように詠っています。
「わが力かえりみもせで只管(ひたすら)に強気言葉を民は喜ぶ」
きっと私も、その頃に生きていたら、強気言葉に熱中していたに違いありません。
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