ヤイトオロシ

 

 その昔、イタズラが過ぎたときは、灸を母によくすえられたものです。何をしでかしたら灸を据えられるかを知っていましたから、母がモグサを取り出しはじめると、私は観念して腕を差し出したものです。そしてモグサの火が尽きるのを恨めしげに眺めました。そういえば、と考えました。灸をすえられる位置が決まっていたことです。当時は何の不思議もなくすえられていましたが、それなりに意味があったのかもしれません。

 このたび後藤さんから、ヤイトオロシという慣わしがかつてあったことと聴かされ、「ハッ」とさせられています。幼少期のあの灸も、その一環ではなかったか、と思ったのです。

 私のうけた印象は、ある時期が来ると体のさまざまなツボに灸をすえ、小さな記を付けておく行事ではなかったでしょうか。それともツボの位置を、あるいはツボの認識をさせる行事ではなかったか、と受け止めました。もしそうなら、各人が備え持って生まれている免疫力に期待する、あるいは免疫力を活性化する、治療の基本施策の初めではないでしょうか。