さもありなん


 

 ロンドンで、とても感激した後で、とても叱られたことを思い出した。感激はロンドンタクシーのドライバーが与えてくれた。でも到着がかなり遅れた。遠回りをしたからだ。

 とても叱られたのは延着したからだ。叱ったのは雲をつくような大男、テディー・ティンリン。当時、名のある女子テニスプレイヤーが好んで用いたテニスウエア―のデザイナー。

 ロンドンタクシーのドライバーは、正規の道のりの途中で道路工事があって、かなり遠回りをした。だから料金はいらない、といった。道路工事をしていることを知らずに乗せ、遠回りしたことは契約違反だ、だから「料金はいらない」と言った。それはロンドンタクシーでは当たり前のことだという。「ならばせめてチップでも」といったが、受け取らなかった。きっとチップは、契約をキチンと果たしたときに生じる満足感が出させるもの、とでも言ったのだろう。もちろん、私はそれ以上の満足感をえていたが、英語ではうまく説明できない。

 気分上々で、ドアーのベルを押した。こわい顔で大男が現れ、ブツクサ言いながらレストランに案内された。シンプソンと言ったように思う。席がなくなったと聞いていたが、たくさん空席があった。ローストビーフを2人で味わった。

 なぜ怖い顔をしていたかというと、予約していたティンリンの定席が、遅れたために他の人に採られており、使えなかったからだ。