偶然の一致

 このご夫妻は、「妻の人形に囲まれて過ごす余生」を願ってくださっている。わが家と同様に、お子さまにめぐまれていないから、きっと、妻が人形に秘めた願いに共感してくださっているのだろう。それは、「いつか鳥のように」「翼をひろげて」羽ばたこうとする心意気だ。

 とても遠方にお住まいだが、久しぶりの京都めぐりの途中で立ち寄ってくださった。きくところによれば、ご主人はその間に、心臓を患い、奥様に多大な心配をかけておられた。その後も、ニトロを常時持ち歩いている、とのこと。

 誕生日も話題になった。1日違いとか、とても偶然とは思えなかった。夫婦はともに、同じ星座を眺めながら産湯に浸かりあっていためぐり合わせ、ということになる。

 このあたりで話題を庭にかえたが、いつの日にか泊まっていただけそうな心境になっていた。話し込みたい、とねがわずにはおれなかった。

 この後、妻の案内で庭めぐりをして下さったが、お二人を目で追いながら、とてもなごやかな気分になっている。温室で、レタスの苗を「苗床育て」から「ポット仕立て」に切り替えていたのだが、ただそれだけのことをしているだけなのに、とても豊かな気持ちになっている。そして次々と思い出したことがある。

 妻の人形を求めてくださるご夫婦に見出す共通点の1つだ。夫の定年退職などを機に求めてくださるご夫婦が多いことだ。海外旅行をプレゼントしようと思ったが「妻が念願の人形を手に入れたい、と願ったので」とか、銀婚式を機に「オビかキモノでも」と勧めたが、「いつの日にか」と願ってきた人形を、と聞かされたのでといって個展会場を揃って訪れてくださったご夫婦を思い出した。