すこぶる喜んでいます

 

 米、英、豪、日などの日本研究者や歴史家であり、親日家でもある187人が、安倍首相に「大胆な行動を促す声明文」を届けたことを明らかにした、との記事を掲載当日の朝のうちに読み終えている。

 この声明文は、この4月下旬からの首相訪米前に公表すべきとの意見もあったようだ。だが、「必要以上の政治性を持たせたくない」との理由で見送られていた。ところが、首相が慰安婦問題で踏み込んだ発言をしなかったこともあり、訪米後に首相官邸に送りつけると同時に公表するに至った、という。

 読み進みながら、2つの記憶が頭をよぎった。その1つは10日ほど前に読み終えたある一書の読後感だ。他の1つは、1995年秋の思い出であった。後者は、『「想い」を売る会社』の取材で、アメリカを2度にわたって訪ねたが、その折に生じたトピックスのである1つである。この幸運は、きっとリズさんに通訳をしてもらった成果の1つであったと思う。

 エネルギー省の高官との単独インタビューがかなったが、付録がついた。当日の夜の会食が実現した。場所は高官に決めてもらい、経費は私が持った。

 この高官は、インタビューの最中に、リズさんに1つの質問をした。「あなたは、森さんの発言(の内容)以上に、森さんの心を理解しているようだが、どうしてか」といった質問だった。リズさんは「日本での、ホームステイの父です」と即答した。

 話題の1つは、真の愛国心だった。ベトナム戦争に従軍し、5万人が死んだ。その後、帰還しながら10万人だったか、15万人だったかの人が自殺した、と聞かされていた。対して、反戦運動を繰り広げた人も多かった。召集令状を破棄した人もいた。

 いずれが、真の愛国心の持ち主であると思うか、と私は問いかけた。「後者だ」と高官は己の意見をまず明らかにした。その上で、「しかし、今はまだ、表明できない」とつないだ。「多くの死者には、妻や子がいる。あるいは父や母、兄弟もいる」、「その人たちの心境や立場を考えれば、表明は控えたい」。

 私はこの対話を心の内に留めおくことにした。

 その後、さすがはアメリカ、と思わせられている。その了見の広さや、度量の大きさを感じさせられている。それは、ベトナム戦争推進の張本人、マクナマラ元長官が「ベトナム戦争は間違っていた」と手記でも表明したからだ。少なくとも、マクナマラ元長官の良識に心を打たれた。アメリカ国民の反応を知る努力もした。そして、こうした表明もアメリカ人に愛国心を抱かせる源泉の1つであろう、と感じさせられている。

 その前後で、2度にわたってベトナムを訪れ、数々の激戦地遺跡や、戦争犯罪博物館なども巡っている。そこで、参観者などの多くがアメリカ人であったことを知り、驚かされている。その後、アメリカは切れ目のない戦争に関わっているが、これにも驚かされている。でも、上の高官との対話は、これまで心の内にしまっていた。

 でも、このたびの187人の賢者の想いに触れ、なぜか思い出したくなった。