ゲストも大活躍

 

 爽やかで、幸せな気分とはこういうことだろう。この日最後のプログラム、焼き芋を全員で楽しみ、その後で皆を見送りながら、しみじみとそう思った。

 新入学生にはさまざまな体験をしてもらえた。ゲストの2人は、社会人とはいえまだ初々しい。だが、きっと学生たちに、その年齢の差以上の何か大きな差異があることを気付かせたことだろう。その1つは、何を持って完成の域とするか、の意識だ。その差異を、「はんたか」本体の塗装メンバーとして加わった学生は痛感したに違いない

 残念だったこともある。ゲストの2人には、「はんたか」本体の塗装に終始してもらった関係で、他の作業を体験してもらえなかったことだ。ゲストのような若者にこそ、この庭で必要とされる他の作業、落ち葉かきや焚火など、日常の作業を体験してもらいたかった。この若者は、近く結婚を考えるだろうし、結婚生活に入るだろう。その時の選択基準や判断材料として、体験しておいてもらいたかった。

 この若者とは3度目の出会いだが、「良き先輩に囲まれていたわけだ」と思わせられたし、「良い会社に勤めているに違いない」と感じさせられ、嬉しかった。

 最初の出会いは、テントの張り替えがキッカケだ。テントの張り替えを引き受けた会社が指定し、張り替え作業に当たった会社が派遣した社員の一員だ。

 張り替え工事の第1日目は、古くなったテントを取り払い、躯体のペンキをはがし、錆をとる作業から始まり、塗装をし直している。その日は、私は作業に立ち会っておらず、この若者が来ていたとしても、挨拶をした程度で、はっきりした記憶がない。

 2度目の作業は、テントを張り替え、コーキングをして仕上げることだった。この日も作業の途中で側を通っていたとしても、工事に当たってもらった人たちの記憶はない。この若者・山本さんを意識したのは、この第2日目の仕上げ作業を終了えた後のことであった。庭仕事中の私は妻にコキで呼び出された。「仕上がりを点検してほしい」という。テラスにかけつけ、その評価を下した後だ。この若者を意識した。

 カフェテラスでは、妻たちは全員でテントを見上げていた。その視線を追った私は、たちどころに違和感を覚えた。テントとコンクリートが接する部分が「目をむいていた」。コーキング剤で埋めた部分が、テントの(これまでの白に替えて、アイトワのテーマカラーである)エバーグリーン(濃緑色)と、年月を経て黒っぽくなったコンクリートとの境目が、白いコーキング剤で固められており、目をむいたようになっていた。

 「これはダメダ」と、私は開口一番、第一印象を口にした。妻たちは全員が「やはり」と言った反応をした。しかし、業者の人たちは、妻の反応とは異なり「これでやむなし」といいたげだった。この時になって初めて、私はコーキング剤は白ではなく「透明を用いていた」ことを知った。即座に私は、「ダメダ」と感じさせた原因を理解した。

 だから「雨漏りしないように、丁寧にコーキングしたのでしょう」とつぶやいた。その丁寧さが原因で、透明のコーキング剤に空気が混じり、白くなったに違いない。次いで、「とはいえ、このままでは納得できない」とつなぎ、「カラーコーキング剤はないンですか」「補修してほしい」と意向を示した。もちろんその上で、次の意見も添えた。

 「その補修は、あなた方の後々のためになる。勉強になる」

 この意見に、最も早く「うまく受け止めてもらえた」とかんじられる反応を示したのが、この若者だった。「引き受けました」と言わんばかりの反応を示した。だから私は、この若者に向かって「よろしくお願いします」と念を押した。そして、この人は、とても歳が若そうに見えたものだから「ひょっとしたら、社長の後継ぎかもしれない」と思った。

 かくして補修工事の日になった。

 前日の内に、私は三脚脚立をカフェテラスに運び込んでおいた。フジの剪定をしながら補修ぶりを眺めることにしたからだ。妻に呼ばれて駆けつけると、業者は2人で来ていた。

 この若者が、まず「カラーコーキング剤が見つかりました」と挨拶した。ベテランと思われる中年の職人が、そのカラーコーキング剤で丁寧に補修を始めた。この若者は、助手のごとき動きをしていた。

 この日の私は、近所で大事な打ち合わせがあり、出かけなければならなかった。しかし、午後のオヤツはなんとしてもこの2人と一緒にとりたい、と思っていた。その願いどおりに、帰宅時は、ほぼ補修工事は終わろうとしていた。

 オヤツを一緒にとりながら、幾つかのことを知った。この若者は入社して間がないこと。独身。仏教系の大学を卒業し、専攻は社会福祉であった。そして、次の日曜日は空いていた。だから、私は1つの提案をした。

 佛教大学の学生が「この庭に。定期的にやってきて、庭仕事を手伝ってくれている」と話した。すると、この若者は関心を示した。

 一緒にオヤツをとっていたベテランは、私たち2人の会話に丁寧に耳を傾けていた。いかにも了見の広そうな人に見えたし、この若者が可愛くて仕方がないような反応を示していた。だから、この若者のケイタイ番号を聞きとめた。

 佛教大学のリーダーにも、ゲストの参加を了解してもらえた。大きな作業テーマが待っていた日だったが、「新入生が中心だからむしろ助かる」と言ってもらえた。

 かくしてこの日になった。実はその2日前に、この青年からケイタイがあり、「もう1人連れて行って良いか」との問い合わせがあった。了解すると同時に、学生は予定通りに、10時ごろに到着する、と伝えた。

 この若者は10時に、女性を伴って現れた。年頃がピッタリお似合いの女性だった。ほどなく学生も到着。この日は、新入学生が主だったので、昼食とおやつの時間をタップリ取り、資料を配布して、さまざまなことを語った。

 その折に、新たなことも知っている。この若者は、業者の一員としてわが家を訪れたが、そのなかでは一番の「ペイペイ」であったこと。社長の後継でもなんでもなかったこと。そして、先輩社員に「いらんこと(コーキングの補修)を引き受けた」と、叱られてはいなかったこと、など。

 そうしたことを知った時に、なぜか私は、商社に入社したての頃を振り返っている。スタッフ部門に配属されたが、ほどなく営業部門の多くの先輩に連れられて、先輩たちの商売先を訪れるようになっている。そうした体験を振り返り、改めてよき先輩や、よき会社に恵まれていたことを喜んだ。

 この若者には、予定通りに「はんたか」本体の塗装のし直しをまかせたが、。

 

焼き芋を全員で楽しみ

その差異を、学生は痛感したに違いない

日常の作業を体験してもらいたかった

日常の作業を体験してもらいたかった