とても楽しかった

 

 良きテキストを選んだものだと思う。もし「人生が選択と決断の連続である」とすれば、そして「選択と決断の積算が人生だ」と思ってよいとすれば、良きテキストを選んだものだ。私はこの一書は再読だが、塾生のおかげで、つくづくそう思わせられることが生じている。

 この日は、1988年6月に上梓した処女作で、とても躊躇しながら盛り込んだ2つの箇所をありありと思い出している。その1つは人類のみが持ち合わせる「三つの脳」であり、もう1つは第4時代を創出し移行する上で必要だと見定めた生きる指針だ。1973年にそれを見定めており、「三大決意」として載せている。

 「三つの脳」は、恐る恐る文字にした。編集人の助言で書き加えた2つの要点の内の1つだ。それは、私がファッションビジネスとは「供給側の知恵と需要側の感覚が出会いがしらに演じる一発勝負」と語ったことがキッカケになり、編集人は、その知恵と感覚の詳述を求めた。そこで、いまだ勉強不足ではないか、との不安があったが「三つの脳」を書き加えることになった。

 当時は、脳に関する書籍などごく限られていた。社会は今のように、脳に関心を払っていなかった。しかし、私はファッションビジネスに関わり、その究極を追わなければならない子会社を立ち上げていた関係で、思いつめたことがある。結果、「三つの脳」の仕業としか思えないことが多々あること、さもないと説明がつかないことが多々あることに気付いている。この間に、ヒントを得る2著に出会っている。

 この「三つの脳」論を持ち出すことで、この日のアイトワ塾では理解度は格段に深められたと思う。これも塾生との再読のおかげだ。「三大決意」を定めた時の心境もありありとよみがえった。今にして思えば、公表しておいてヨカッタとつくづく思う。遠距離通勤に耐えながら、大阪という都会と対極にあった京都の住まいとの間を行き来したおかげだ。この間を行き来している間に、第4時代が頭に浮かび、構想している。そして、わが国は第4時代を創出し、移行する上で、最も恵まれた立場を占めている、と見。た

 その上で、一番有利な立場にある産業がアパレルであり、その最右翼にあるのが勤めていた会社だった。うなるほどの内部留保があった。最高の経常利益率を誇っていた。百貨店ビジネスも軌道にのせていた。それらを駆使し、質的転換を図れば「さすが」との評価を得るだけでなく、日本のアパレル業界だけでなく、消費者の意識改革も進めえていたものと思う。だが、会社は量的拡大を選択し、持てる力を悪しき方向に生かしてしまった。

 この日、この時に塾生の1人が取り出した資料があった。質的転換を決断せずに量的拡大を選択した結果のニュース、と私には思われた。

 質的転換を必死の思いで促した当時を振り返りながら、この度のアイトワ塾では自著をテキストにするのではなく、想いを同じくする人(と思われる人)の一書を選択した幸運を噛みしめている。本来なら『エコトピア便り』を取り上げるところだが、そのプロローグであるような期待を込めて選んだ一書だが、なぜか処女作を再度検証したくなっている。その必要性に思い至らされている。「記憶」と「記録」は異なり やすいものだ。