さまざまなありがたいこと
 

 「なんと屈託のない素敵な日本女性だろう」が、寿子さん第一印象だった。そのお嬢さんが「ピレネーでBIO食のホテルを経営している」と知った。

 お嬢さんの洋子さんは想像以上だった。その夫フレアンにも魅せられた。寿子さんは「子どもに幸せは求められないけど、楽しさは与えてくれる」という。洋子さんとフレアンはいかにも楽しさいっぱいの人だ。共にクモリがない。腹が座っている、と見た。

 洋子さん15歳の時から海外(カナダと聞いたように思う)に出ており、最後はピレンーにたどり着き、定住を決意。トゥルーズという雪解け水と坂がきれいな街、そして緑と瀟洒な石造りの家並みが魅力的な街に3棟からな館を造り、一つのムーブメントを始めている。BIO食を基盤にした、大げさに言えば文明人に生きる勇気を与える運動ダ。

 まず1棟は、10室の寝室と、大きな調理場や駐車場がある建物道をはさんで、10数名がヨガ体操もできるスペースを持つ建物。その隣に洋子さんの居宅がある。

 スキーが好きな洋子さんは、やがてフレアンに出会う。ピレーネーは国立公園だが、その一角にそれは美しいトレッキングコースがあり、その管理人ダ。トゥルーズの街から車で半時間余から始まり、3泊4日で回れると聞いたコースだが、「世界1、美しい散歩道」と宣伝してよいのではないか。NZにもそれは美しいトレッキングコースがあり、その1つ・ミルフォードトラックは「世界1、美しい散歩道」と称している。私の体験で言えば、ピレーネーのこのコースも「世界1」と言えそうだし、植生が日本に似ているだけに、日本人には特に馴染み易く、快適だった

 実は、寿子さんを迎え、宙八夫妻を交えて語らいながら、私は前日の学生とのやり取りを思い出している。温室掃除の折のことだ。背が高い清水祥吾さんに、屋根の部分の掃除を頼んだが、ガラスを2枚、時をおいて割った。その時の私のとった態度を振り返った。

 1枚目を割った折は、怪我はないか、が心配だった。私は足のかけ方を助言した。その後、2〜30枚のガラスを磨いたのちに2枚目を割った。なぜか私にはそれが、彼の熱心さの表れだ、と見て捕れた。事実、そうだと思う。無性に私には嬉しく思われた。

 「熱心になればなるほど、失敗が伴いがちだ。そうしたことをここで学んでほしい」「社会に出る前に、ここで学んでほしい」と、ニコニコしながら語り掛けていたと思う。

 寿子さんと話しながら「そうだったのか」と、振り返ったことがある。それは洋子さんの思い出だった。ある朝食事のことだ。厨房のあたりからガチャンと食器が割れる音が響いてきた。洋子さんはマユ1つ動かさずに、私たちとの話を悠然と続けていた。

 もちろん彼女も、それが公共物であれば、あるいは彼女が勤め人の管理職であり、それが会社の資産であれば、即座に叱責していただろう。私も、これまでそうしてきた。彼女は良き従業員にも恵まれているのだ、とも思った。

 スペイン旅行は車で国境を越えた。おかげで、文化を異にする家並みの変化も楽しめた。帰路では国境を越えながら、EUとしての統合の知恵と苦労の数々にも触れることができた。時はギリシャ問題で荒れていたが、ついこの前は「スペイン問題」で騒がしかった。ギリシャにも行ってみたいものだ、と強く思わせられている。

 国の経済状態と、家計の実質との関係に興味をそそられたわけだ。

 このたびの旅行で、アンドラ公国という人口7万人の国があったことを知った。ピレネー山脈で接するスペインとフランスを一体と見れば、臍のような位置に存在している。幸運なことに「私はそこから来ました」という青年が半断食セミナーに参加していた。糖尿病に悩むバルセロナ出身の妻を伴っていた。

 素晴らしいカップルだった。人口7万人のうち2000人ほどが先住民で、他は外国からの流入という。その小国が今、とても栄えているという。無性に私はその秘密を知りたくなった。観光と金融が主産業とか。そして、国の要職には外国人を拝しているとも聞いた。「行ってみたい」と思った。その時彼は一言「バランス」と語った。

 このカップルは何か相談事をした。そして彼は席を立った。次に現れた時は、1枚のTシャツを携えており、私にくれた。アンドラ公国製のシャツだという。

 このたびの旅行のもう1つの収穫は、2310mの山に登れてことだ。どうやら宙八さんは、何としてもこのコースを私にも体験させてやろうと思っていたのだろう。随分手を焼いてもらった。もう1人、糖尿病患者の病餅がいた。この若くて屈託がなく、美しい女性には、すばらしい夫が同伴だった。だから、もっぱらロードワークでは、初日のロードワークから宙八さんは終始私の体調管理に携わってくださった。山登りは、半断食開始5日目だったが、終始つかず離れず同伴し、たどり着かせてもらえた。

 もちろん当日の出発直前まで私は躊躇している。宙八さんだけでなく皆さんに迷惑を掛けないか。でも、登りたい。そこで、GOの決意をした背景に、フレアンと洋子さんの2人、そして1枚のラガーシャツが大きくかかわっている。

 この山登りについては、トゥールーズの空港からはじまった車の中で話題になっている。フレアンは、ダメなときは「ロバで運んでやる」といってもらえた。そのフレアンは、洋子さんの館まで車の運転をしてもらえたが、すぐに山小屋へと去って行った。そのフレアンに再会したい、と思った。

 また、臨月に入っている洋子さんも登るという。さらに、山に登りたくて、キャラバンシューズも持ってきたし、新品のラガーシャツも持参していた。ラガーシャツは伸幸さんの弟にもらったもので、「どこで下ろすか」を考えていた。

 「なんとしても」と思った。

 私は2本のストックを借りて登ることになったが、洋子さんはストックなど用いない。

 実は、この時に用いたキャラバンシューズやラガーシャツなどを、先に帰国した寿子さんに持って帰ってもらっている。「どなたか、荷物を持って帰ってほしい人はいませんか」との呼びかけに甘えた。「洋子への荷物を出したあと、帰りのトランクは半分空なの」に甘えた。

 この歳になると、大事なことや楽しいことは、どれだけ素敵で爽快な人と出会えるか、が人生のように思えてくる。このたびの旅行でも、ありがたいことが楽しいことが多々あった。私はストックを1本しか持参しなかったが、この人に借りていなかったら登れていなかった、と思う。セミナーのプログラムには、フットマッサージやヨガ体操もある。そのヨガ体操の先生には、最高齢で病気持ちの私に随分気を使ってもらえたし、フットマッサージの相手もしてもらえた。

 吉川吉美メソッドという不思議な治療法があることも体験した。それは秋田から参加した母子連れの母の方から教わった。おかげで傷めた背筋が一晩で楽になった。


 
 

10室の寝室と、大きな調理場や駐車場がある建物

10室の寝室と、大きな調理場や駐車場がある建物

10室の寝室と、大きな調理場や駐車場がある建物

10室の寝室と、大きな調理場や駐車場がある建物

10室の寝室と、大きな調理場や駐車場がある建物

10室の寝室と、大きな調理場や駐車場がある建物

道をはさんで、10数名がヨガ体操もできるスペースを持つ建物

植生が日本に似て、日本人には特に馴染み易く、快適だった

植生が日本に似て、日本人には特に馴染み易く、快適だった

植生が日本に似て、日本人には特に馴染み易く、快適だった

植生が日本に似て、日本人には特に馴染み易く、快適だった

植生が日本に似て、日本人には特に馴染み易く、快適だった

植生が日本に似て、日本人には特に馴染み易く、快適だった

植生が日本に似て、日本人には特に馴染み易く、快適だった

EUとしての統合の知恵と苦労

EUとしての統合の知恵と苦労

EUとしての統合の知恵と苦労

素晴らしいカップルだった

素晴らしいカップルだった

アンドラ公国製のシャツ

臨月に入っている洋子さんも登るという

臨月に入っている洋子さんも登るという

この人に借りていなかったら登れていなかった、と思う

ヨガ体操の先生