憐れみさえ感じています

 

 安倍首相はどうして、あらぬ不安まで醸し出し、かくも国民を偏狭な心境、つまり「奪い合い」「疑い会う」ココロに陥れようとするのだろうか。過日は、元石油資源開発取締役であった猪間明俊さんも訴えていたが、安倍首相はこれまで、折に触れて国民を「奪い合い」の権化に陥れようとするかのごとき言動を重ねてきた。私はその都度、盧溝橋事件を演出した人の心根を思い出した。

 このたびの敗戦記念日には、夫人に靖国参拝をさせたが、その腰が崩れたようなやりようには、憐れみすら感じた。そうと知った時は、ピストル自殺しておきながら、死に切れなかった軍人、多くの若者を死地に追いやった首相、東条英機の心根に思いを馳せた。学徒動員の犠牲者にいたっては、5万人ないしは13万人と、いい加減だ。

 こうした犠牲的精神を持たぬに昨今の若者を揶揄した自民党議員も議員だが、麻生副総理も副総理だ。今は「平和法案を通すのが先決だ」。本音は「した後で言うように」と言った注意を自民党議員にしてはばからず、こうした発言をした副総裁を罷免していない安倍首相も安倍首相だ。だからだろうか、

 注目されていた「安倍談話」にいたっては、当初の勢いは「どこへやら」。腰は砕け、そのズルサは目に余る。東京の渡辺富士夫さんは「問題語すべてあるけど意味不明」と川柳で揶揄したが、同感だ。これが、わが国の首相であるのか、と暗澹たる気分にされた。

 過日、朝日新聞が「従軍慰安婦」問題について2度目の「記事訂正」をした時のことだが、あの時の勢いは何だったのか。同じ問題で、かつて朝日が(最初の)訂正をした時には何ら騒がず、2度目には因縁をつけるがごとくにイキリたったが、あれは何だったのか。「読売」や「産経」を巻き込んで、朝日新聞をつぶそうとまでしたが、あの勢いを奮い立たせた心根は何だったのか。何がそうさせたのか。気になる。

 その顛末と、その陰湿な巧妙さは、青木理が『抵抗の拠点から』でつまびらかにしたが、なぜかくも屈折した思いに安倍首相を駆り立てたのか。

 その屈折した思いは元首相、岸信介の影響かもしれない。岸信介は戦犯として巣鴨で過ごしながら、太平洋戦争を正当化し続けた人であり、その後、吉田茂を引きずりおろした人といわれる。そして、吉田茂とは逆に、ジョン・ダワー(朝日20150804)によれば、今日の従属的な日米関係を固定化する土台を作った人である。

 オリンピックを東京に招致したくて、安倍首相は真っ赤なうそまでついたが、ブロックされていたはずの放射能漏れは、未だに漏れ続けている。もとよりコントロールなどできていなかったわけだ。この首相が自ら演じて見せたでたらめなやり方が、ある者には足元を見透かされ、またある者には手段を選ばぬやり口を許してしまったようだ。前国際競技場案における法外な見積もりであり、エンブレムのデザイン問題におけるパクリの嫌疑だ。莫大な税金が投じられながら、国際的にバカにされてしまった。

 それはともかく、今は一刻も早く東日本の311被災地の復興が急がれている。とりわけ原子力発電事故責任者の究明と、被災者への補償が急がれている。国民の平和と安全をまず担保できる国であることを証明することが求められている。

 そうと分かっていながら、それらから国民の目をそらせようとして、莫大な税金の無駄まで重ねる国、それを積極的に進める安倍総理を哀れにさえ思われる。