思い違い

 

 門のあたりからカフェテラスに至る緩やかなん階段沿いに、木製の手すりがある。その塗装をし直す時期になったが、まず木部の欠けたところを穴埋めしておくことが求められた。そこで、このコーキング作業を姉妹に体験させたくなった。とこれが、コーキング剤が所定の場所になかった、てっきり妻が、いつものごとく、用いたあとで元に戻していないのだろう、と疑った。だから妻に、「貸したコーキング剤を(所定の場所に)返していないだろう」と迫った。迫られた妻も、よくあることだから、どこかに置き忘れたのかもしれない、と考えたようだ。人形教室内のあちらこちらを探しはじめた。

 時間はドンドン経過し、「だんだん腹立ちが高まっている」と迫った。妻は探しながら「コーキング剤など、いつ借りたのだろ」「必要とした覚えがない」と思いめぐらせたようだ。

 私は、「貸したことは確かだ」と過去を振り返った、貸すときに、相当古い品だったから封を切っていないことを確かめた記憶をよみがえったからだ。だが、「妻に」であったのかどうか、怪しげになった。何のために貸したのか、までは思い出せなかった。この私のひるみをついて妻は行動を変えた。どこかへ走り、息を切らせながら戻って来た。そして「これのことでしょう」と突き出したものがある。

 「それだ」と、いったものの、実にバツが悪かった。仁美さんは一部始終を見ていたのか、妻に「謝るべきだ」と私に迫った。かくして、姉妹は作業にかかり、一件落着。

 その日の昼食時だったと思う。寿也さんが語り出した。阿部ファミリーでも似たようなことがあったようだ。「机の、ここに」とその置かれた状態までリアルに示し、「置いてあったのに」「どこえやった」と仁美さんに迫ったことがあったようだ。もちろんそれも、思い違いであったわけだ。

 結局、この日は妻に2度詫びることになった。なぜなら、妻が「そういえば」と、私の思い違いを正してくれたからだ。貸した相手が違っていた。ちょっとした工事で来てもらった業者の求めに応じて貸したことを思い出した。
 

木部の欠けたところを穴埋めしておくことが求められた