2度目の夫婦ゲンカ

 

 最初のケンカはコーキング剤事件だったが、2度目は翌日のことだ。畝の肩に残っていた八重のチュウゴクホウセンカを抜いて、植え替えた直後のことだ。

 妻は金太の散歩中だったが、その途中で私の側によって来た。何か伝言か相談事があったのだろう。すぐさま、妻はかつてハッピーに植木鉢を割らせた失敗を思い出したようで、「駄目よ、金太」と言って、伸ばしていたリールを引いたが、すでに遅かった。それ以上金太が動けば、植えかえたばかりのホウセンカにリールを絡ませ、引きちぎってしまいかねなかった。

 とっさに私は、金太の頭に一撃を加え、首輪を捕まえて引きずり揚げ、妻の方に円弧を描かせるようにして投げ捨てた。妻はモノスゴク怒った。「弱い者イジメはしないでください」「私が悪いのですから、私をたたいてください」と、その頭を突き出した。

 「人聞きの悪いことを言うな」と私は一喝した。「弱い者イジメなどしていない。悪いものをいさめたのだ」とつないだ。

 この一件は、ほぼこれで終わったが、続きが夜分にあった。食事時だった。「日が短くなりましたね」とか「陽が1時間も早く落ちるね」などと話し合っていたが、1匹のハチが食卓の上を舞い始めた。やがて妻の椅子の後ろ側に止った。それがガやアブていどなら捨ておかせたが、このたびは妻が立ち上がるのを制止しなかった。

 「刺しそうなハチですから、殺してもよい」と妻は問い、私は「イイヨ」と答えた。

 ハエたたきを取り出して、妻はたたき殺した。だが、一言、「何も悪いことをしていないのにナー」と、呟いた。