文化を守るための集会

 

 「偉大な遺産だ」と改めて常寂光寺の前住職を偲んだ。同様に正義感と責任感に富んだ現住職が、前住職の「偉大な遺産」の恩恵にあずかる光景は美しかった。

 小倉山の自治会で、集会があった。輪番制の年次役員だけではなく、原則永年の地区推進委員という(輪番制の年次役員の弱点を補完する)役員がむしろ主になった集会であった。招集テーマはわが家の目の前で始まった観光客を「待ち伏せ」「呼び込 こむ」などの行為だった。

 かねてから「究極のカフェです」と自称するなど執拗さがエスカレ−トしており、常寂光寺の近辺で風俗営業が始まっている」との噂を、かなり遠方のスーパーで耳にする人が現れたりするまでになっている。

 京都市や警察の当局も動き出し、観光客や散歩者の安心安全の上で問題あり、と認めた。それでも私は、妻に「放っておけ」と助言してきた。わが家がことを荒立てれば、「近隣問題だ」とか、「喫茶店間の争いだ」などと、問題を矮小化されかねない、と警戒したからだ。

 このたびの集会では話が大きく進展していた。観光客や散歩者の安心安全向上のために、防犯カメラを設置する案が、具体化していた。費用の多くは当局の補助金で賄われ、設置場所も当局の指導の下に実施する段階にまで達していた。

 集会の目的は2点だった。1点は、補助金で100%賄えない。残る一部経費をどうするか。それは、自治会費では支出しないことになり、その時に常寂光寺前住職の「偉大な遺産」に改めて感謝した。「ヨカッタ」と思った。

 それは、地区推進委員制度を立ち上げた時にさかのぼる話だ。過去に数度、当自治会では深刻なテーマ(問題)に直面してきた。その1つで、裁判を起こさざるを得なくなったことがある。そのときに、判断の迅速性が求められることも知った。地区推進委員が選ばれ、制度化された。同時にしかるべき経費も必要だと分かり、町内会費とは別に、地区推進委員が判断し、輪番制年次役員の了承を得て支出を決裁できる積立金制度も設けられた。自治会員から出る古新聞や古布などの売却代金などを積み立てたりし始めた。

 2点目は設置場所であった。当局の指導では、最も有効な位置は、わが家の一角であった。わが家が拒否すれば、狭い公共歩道にはみ出してしまう。また、プライバシーの問題にも少し気がかりがあったが、何よりも観光客や散歩者の安心安全向上が優先課題だ。それが、この土地柄への配慮すべきことであり、快諾した。快諾の気持ちは、防犯カメラ設置にともない支払われる土地代金があるが、これを全額当積立金に寄付することで表明した。

 私は常に良き善隣関係を望んでいる。それは良き文化を守りあうことだ。そこで現在の最大の気がかりは、昨年の10月と11月だけやってみます、ということから始まった当問題だ。そのご、代金が1000円から3000円になるなど、今日まで続いている。

 これまでの歴史が培ってきた良き文化が、多くの観光客や散歩者を惹きつけてきたが、この問題が生じてから台無しになっている。常連者が避けるようになり激減した。また、初めてこの地を訪れる人に、こうした土地柄だと印象付けてしまいかねないことにも皆さんが危機感を抱いている。同感である。

 こうした問題の改善のために、誤解があれば誤解を解きたく思っている。そもそも、ことの発端は、現住職の助言に対する反論にあった。現住職の誠実な助言に対して「文化度を高めている」と反論した、という。私には得心しかねる反論である。

 文化は土地柄ごとに無数に発生し、保たれたり崩れたりしてきた。文化には良し悪しはない。上下もない。だが、土地柄ごとに厳然たる違いはある。そこにまったく異なる文化を強引に持ち込むことは、それ自体が元の文化の破壊である、と断言してよいだろう。この点の相互理解を深め合い、小倉山地域のより良き文化に育て続けたい。