あほらしくなる結末

 

 「あれはなんだったンだ」と、アホラシクなりました。しおらしい声で「ストーブにケモノが入りました」「捕り出してくれませんか」としおらしい声で頼まれたときにこのストーリーは始まる。

 ことの発端は、4日前に始まっていた。冷え込みがきつくなり、早朝のPC仕事が辛くなった。そこで朝食時に、ボツボツ「ストーブを出してくれ」と頼んだつもりだが、これがアドバンテージに取られていたようだ。

 妻は何かの拍子に、エライ剣幕で怒り始めた。「偉そうに、何ですか」「ストーブ出せ」「早くしろ」「偉そうに、何ですか」と、ブツブツ言い出した。

 だから、車で送ってもらいながら、児島出張に向かいながら「あの約束をしておかなかったら、エライことになっていたなア」とおもった。あの約束とは、結婚する直前に交わした1つの約束だ。どんなに大ゲンカをしても、先に交わした約束は実行すること、であった。

 この車中で、ケモノがストーブの中に入っている、と知らされた。「何時、気付いたのだ」「なぜ、もっと早く言わなかったのか」と責めたが、後の祭りだった。

 「キット、アナグマかハクビシンだ」「リズさんが、アメリカでは、ストーブの煙突からハクビシンなどがよく潜り込む、と言っていた」などと語らい、帰ってから取り出すことにした。妻はそれで十分、と考えていた。

 だが、帰宅後、すっかり私はこの抑速を失念していた。冬眠するつもりで潜り込んだものなら、来春まで「放っておいても大丈夫だろう」と思っていたからだと思う。妻も、吉田さんに、鶴田夫妻を車で送り届けたもらえる時間が近づいていたから、忘れたのかだろう。

 念願がかない、鶴田夫妻と一昼夜を過ごし、妻が車で最寄り駅まで見送ったが、その車を見送りながら、私は「いつ持ち出すべきか」と考えていることがあった。

 それは、前夜の夕餉で、ほぼ料理が出終わった10時過ぎのことであった。妻が「ゆっくり食べると、随分食べられるものですね」と口走った。もちろんそれは喜びの発言だった。妻は料理をして嬉々とたくさんたべてもらうと嬉しい人だし、逆に残されると悲しい人だ。だから私に妻の満足の声と分かった。しかし、聴く人にとっては、そうとばかりは受け止めてもらえない。

 「鶴田夫妻だからよかったが」と後刻、は注意した。どうやら妻も、不注意な発言であった、と気付いていたようだ。そうなると逆に、妻は素直になれないタチだ、再噴火した。「何ですか、偉そうに」「ストーブ出せ」「早くしろ」「偉そうに、何ですか」が再燃した。

 ところが、この日は、人が変わったようにしおらし気に「ストーブのケモノ」を取り出してほしい、と言い出した。皮の手袋を出し「爪を用心しなければ」と語りながら慎重にストーブの焚口を開くことにした。「もう寝込んでいるのでしょうか、音がやんでいます」「出て行ったのかもしれないよ」「もう死んでいるかもしれません」などと、ふたを開けた。

 一羽のススメの遺体があった。「小スズメの羽音とケモノの音が聴き分けられないのか。気お付けろ」と、私は憤りを口にした。妻は「かわいそうなことをした」とエラクしょげかえり、遺体を埋めに行った。行きながら「そこに(私の骨も)散骨してください」と話した。

 それを見送りながら「偉そうに、何ですか」と、言われずに済んでヨカッタと思った。

 そして金曜日、とても小さなヘビを見かけた。初めて見る色合いだった、だからヘビ嫌いの妻を呼び、急に出くわしてビックリさせないようにと、見せておくことにした

 「知っています、そのヘビ」と平気な顔だった。「でもよく見るとエラが張っていますね」「色は赤マムシだけど、形が違う」と冷静に観測しあい、写真に収めた

 そうか、と思いついたことがある。どういう時に妻は「偉そうに、何ですか」と開き直り、どういう時なら問題が生じないのか、これから心して研究しなければイケナ。


 

 一羽のススメの遺体

写真に収めた

写真に収めた