阿部ファミリーからメール

 

 偶然とは面白いものだ、と思った。庭でユズ採りをした日の夜のことだ。まず、ユズ採りをした午後を振り返った。

 「去年は、結が1人で採ったンダ」と、ユズ採りをしながら前年を思い出した。実の数は比較にならないほど去年は多かったし、厳しい寒さに襲われていたから、ユズの木にスッポリ袋を被せていた。結は、その袋の中に脚立を持ち込み、採り切った。

 そう思っていた日に開いたメールに、阿部ファミリーからの分もあった。

 阿部ファミリーでは、新しい風呂が出来たようだ。その仕上げに近い段階で、屋根造りの段階で(私には、あのあたりだろうと見当がつく)危険な場所があった。エネルギー効率や自然エネルギーの関係もあって、半地下状のような段差があり、その下はコンクリートブロックだった。「あそこに落ちたら危ないだろう」

 姉妹が父親に「命綱」を付けるように勧め、姉妹が命綱を握ったようだ。

 そのころに、私はカリンの木で「危ないことをしていた」わけだ、と思い出した。これも偶然の一致ダ、とニンマリした。

 多分、阿部ファミリーでは、母親は勤めに出ており留守だったと思う。母親がいたら、娘に「お父さんなら大丈夫よ」と言っていたのか、どう言っていたのか、とフト思った。そして、昔話を思い出した。

 ホンダの依頼で、楽しい仕事をしたことがある。ホンダが、バイクを一般家庭に普及させようとしていた頃の話だ。それまでのバイクのイメージを刷新し、安全性に特段の配慮が求められた。デサントと伊藤忠ファッションシステムが協力を求められ、ライダーズウエア―の研究をしたことがある。

 たしか「ラッタッタ」とかのブランドの50ccバイクもあった。ソフィアローレンが登場するCMもあった。本田宗一郎さんの話を聞くこともできた。

 「子供がおぼれないように、と泳がせない母親」もいる。おぼれさせたくないから、前もって海につき落し「泳げるようにさせる母親もいる」。あなたならどちらの母親を選びますか、との選択を迫る話だった。