客引きに仰天

 

 老年夫婦が通りかかり、呼び止められた。その身なりや物腰からの判断だが、人ずれしていない素朴な地域に住まう人たちと見た。かなりの時間呼び留められていたが、3000円と聞かされたのだろう、立ち去りかけた。

 その折の追い打ちの言葉に驚かされた。それ以上に、この老年夫婦の反応にはもっと驚かされた。私には想像すれ出来ない事態が目の前で展開した。

 「きょう日、中学生も入って、楽しんでゆきますヨ」と中学校の名前も紹介し、老年夫婦に語り掛けた。老年夫婦は、その言葉に背を押されたかのようにして、吸い込まれていった。まったく私には、憶測すらできない事態だった。

 「ここは、オーナーのプライベート空間です」「世界中のVIPがお越しになります」との説明が続いている。私なら、「例えば、そのVIPは具体的にどのような方々ですか。教えてください」と質問するところだが、私の知る限りでは、誰一人としていない。

 もちろん、質問はしないが、黙って立ち去ろうとする人の方が多い。そうした時に、「あなたは幸運な人なんだ」と言わんばかりに、追い打ちをかける。このポスターが「出ている時しかお入りになれないんです」と迫る。それで引き戻される人がいるのに、私の知る限りでは、「過去1週間でも結構だから、このポスターが出ていたのはいつですか」などと聞いた人はいない。これも私の知る限りだが、このポスターが過去1年間で出ていなかった日は3日とない。夜明前から日暮の後まで360日以上つりさげられ、待ち伏せしている。

 「5年前から始めています」との語りも聞かれた。