妻にしんみり宣言

 

 風呂の後、ジントニックを軽くあおり、床に入った。そこで胸騒ぎのような「いやな感覚」に気付いた。いつものことだが、この度は脈をみてギョギョギョだった。妻にも確かめてもらいながら「ホレ、飛んだ」「また飛んだ」と自覚症状を告げると、妻は「救急車を呼びます」と言いだす。それは「まだ、やめてほしい」と頼むと、妻は着がえ始めた。「私はパジャマでついて行けないでしょう」が、その理由だった。

 思い当たるフシがあった。妻に薪割の醍醐味を味あわさせたくて、つき合い、「私なら一発で」と思う作業に、妻は一発ではスマズ、手間取った。何故か、日暮れまでに片づけたいと思っていた私は、その後を引き継ぎ、猛烈な勢いで割り始めた。

 日没前なのに、何故か中断したのがヨカッタ。何か物忘れをしたような気分だったが引き上げてヨカッタ。やがてその物忘れは、寒肥まきであった、と気付いたのだが、すでに遅し、かつてのカテーテル検査の折に、左手の脈を失っていたこともヨカッタ。左手では脈をみずらく、やむなく妻に頼みがちになるが、妻は大げさに思いがちで、そのときばかりは「妻をいたずらに泣かしたくない」という気持ちになる。それもヨカッタ。

 そのようなわけで、救急車を呼ばさないために、前夜のうちに寒肥まきは「来週に回す」としんみりし調で宣言した。