金太の痴ほう

 

 「まさか」とは思うのだが、18年目に入る金太の痴ほうがついに露わになった。妻の人形教室には、看護士の資格を持って老人介護の仕事に携わる人がいらっしゃるが、その人の見立てで、妻は金太の痴ほうに気づかされ、観察してきた。さまざまな初期症状が認められるのだという。

 「まさか」とは、「たった一晩だが金太を移住させたこと」があり、それが原因ではないか、との心配だ。私は独断で元の場所に戻したが、あの1昼夜が金太の痴ほうを、少なくとも加速させたのではないか、と心配だ。

 もちろん、あの移住を、金太にとっては「良いことをした」とのつもりで行ったが、あのまま「良いことをした」つもりで放置していたらどうなっていたのか。きっと確信犯のごときことになっていたように思われる。

 金太はもともと横着者で、雨の日などは小屋に引きこもり、時には餌でさえ小屋の中に差し入れないと食べに出ない、ことがあった。それが、このところ、雨の日であれ外で、時計の針のようにグルグルと外で歩き回るようなことが増えた。だから、脚は汚れるし、小屋に敷いた新調の敷き物まで湿らせてしまう。

 そこでに、妻と相談結果、悪天候の日に風除室で過ごさせることがある。すると金太は、妻が悲し気に「まだグルグル回っている」と語るほど歩き回った。それがよき運動になるのか、餌にはとても執着するようになり、ハッピーと同様に、空になったボールをいつまでも舐めている。このありようも異常だ。だから、ケンの時は、風除室に移住させたが、金太は、好天であれば元に住処に戻すことにしている。