第七感までが刺激された
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この、こよなく妻が憧れる女性は、「庭の一部をいわゆる雑木林風に改めた」とおっしゃっていた。それも見たかった。 見学場所として「朱雀門」を希望した。雨にならなければ、との条件付だったのに、雨の中を見学できた。しかも、その道中で想像を絶する現実を目の当たりにできたし、朱雀門下ではハプニングも生じた。 想像を絶する現実とは、平城京跡の中央に近鉄電車の線路が走っていたことだ。ハプニングは「鮫ちゃん」との再会だった。 ボランティアガイドに、まず丸柱の加工について質問した。機械製材した丸柱を、槍かんなで仕上げたという。「なるほど」と思い、質問を重ねた。その内に、「森さんと違いますか」と問われて仰天。「本町界隈で触れ合った鮫島です」と聞き、かつて「鮫ちゃん」と親しげに呼ばせてもらっていた50年ほど昔を振り返った。「鮫ちゃん」は定年後、良い余生を選んだわけだ、と嬉しくなった。 「鮫ちゃん」に資料館の存在を教えられ、しかも大極殿はその手前にあることも知った。雨が強くなっていたが、その両方を見学できた。その道中で、近鉄電車の踏切で待たされたが、なぜか列車を待つのが楽しかった。 今後の、平城宮の再建事業と近鉄のありようがとても気になった。この2つは、日本の未来を予測する上で、大きな「見もの」の1つだ、と思う。私の意見では、オリンピックをするぐらいなら、平城宮の概要を肌で感じられる程度まで再建する方が「日本の未来を明るくする」と思う。オリンピックはGDP型であり、すでに過去のものだ。 それが反対の人も、「もんじゅ」が無用の長物と指摘されてから20年来に投じた2000億円の税金を、この復元に投じていたらと問われたら、賛成ではないか。 それはともかく、未来世代を無視したベンサムの考え方は時代遅れだ。つまり「最大多数の最大幸福」の最大多数に、未来世代を含めることを忘れてはならない。それが今日までの環境破壊や資源枯渇を許してきた。まるで、子や孫を、冷房した自動車に乗せて灼熱の地獄に向けて突っ込ませているようなものだ。これからは、オルタナティブの追求が求められる。さもなければ、現生人類まで不幸な悲劇を抱えこむことになるだろう。 それを避けるためには、考え方を切り替えないといけない。そのきっかけをつくる上で、この再建は有効、それに役立つ若者を勇気づけるために活かせる、と思った。 第一次大極殿に踏み込み、よくぞ「あの時代に」、とわが民族の祖先が造った力と知恵を誇りに思った。天皇の玉座も見た。次いで、資料館。 妻は、当時、事務官などが椅子に座って仕事をしていたとは知らなかったようだ。ベッドで寝ていたことにも驚いた。下駄や草履もはいてはいなかったことや、今も天皇の住まい方は当時のあり用のはず、と私は教えた。教えながら、天皇がご夫妻でフィリピンを訪れ、大歓迎されているニュースを振り返った。近年のその訪問先の選択に、並々ならぬ配慮がありそうに感じられ、胸が熱くなった。 そう思っていると、大極殿で「鮫ちゃん」と分かれの挨拶をもう一度できた。彼は雨の中を、近鉄の踏切をこえて来たのだろう。帰り支度に違いない。わたし達は、最後の見学場所に急いだ。芸術家が慕うと聞く仏像がある秋篠寺だ。苔庭は雨にうたれ、みごとであった。 この後で、自宅に招かれ、「娘から預かっているの」とおっしゃる犬にも会えた。だから、妻と「屋内犬もいいものだね」と、話し合った。 夕餉は、とても強い印象が残っている店を希望しておいてヨカッタ。前回は、給与を奨学金と位置づけ、若者の指導に当たっていた人が、事情が大きく変っていた。奥さんを失くされ、今は3人の娘に助けられている。もちろん、料理法が根本的に変っていた。最後は、麦とろと、そしてじょうよう饅頭と抹茶だった。最初から最後まで楽しくて、これを「心を打たれた」という言葉以外では表現できない己が悔しかった。なぜか、妻には叱られたが、調子の 乗りすぎたようで、半年後の約束までにしてしまった。 この日は、昼食時の洋食で、五感を超えた美味に浸ったが、その心が見学やお宅で過ごせたひと時の間に、直感や予感まで膨らせてしまった状態で夕食となった。目の前で展開されたその料理に対する想いが伝わってきて、不思議な境地に誘われてしまった。 |
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雨の中を見学できた |
雨の中を見学できた |
雨の中を見学できた |
近鉄電車の線路が走っていた |
丸柱の加工について質問した |
なぜか列車を待つのが楽しかった |
不幸な悲劇を抱えこむことになるだろう |
不幸な悲劇を抱えこむことになるだろう |
不幸な悲劇を抱えこむことになるだろう |
あの時代に、と思った |
あの時代に、と思った |
天皇の玉座も見た |
椅子に座って仕事をしていた |
ベッドで寝ていた |
苔庭は一際は雨にうたれ、みごとであった |
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今は3人の娘に助けられている |
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麦とろ |
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