ボケ

 

 老人ボケで片づけたくなる幸せだった。それが、吾がポンコツエンジンのポンコツたるゆえんを再認識させ、翌日のヤーコンの掘り出し時の急ブレーキにつなげた。

 喜田さんが、妻と一緒にケーキ造りをご希望になり、先週、その日時を妻が指定した時には少し私はガッカリした。私の歯科医の予約とバッチングしていたからだ。挨拶もできない、と思った。

 その後、新学期が始まり忙しくなったリズさんに、私は日限を切らずに英訳を頼んだ。なんとリズさんは、ほんの2〜3日で仕上げ、出張中に届けてくれていた。

 そこで、喜田さんに電話で、ケーキ造りを終えた後も待ってもらうことにして、意気揚々と歯科医に出かけた。ところが、何かがおかしい。やがて歯科医の受付に呼び出され、私のボケ(ポカ?)が指摘され、思い出した。私は日時の修正を失念していた。

 修正日を診察券に記入してもらっていたのに、その診察券を持参しながら、それを確かめず出かけてしまった。修正前に書き込んだ日程表を修正していなかったことが原因だった。恥ずかしくなって歯科医を飛び出し、路上で妻に電話。妻を待つ間にイロイロ考えた。

 「そうだった」と、思い出したことがある。「この位置から、あの日は数10mも走ったンだ」と、ポンコツエンジンにポンコツ症状を生じさせた主因、を思い出した。「あれこそが、典型的なボケだ」と思われた。

 その日は、ポロリとはずれた差し歯を、着け直すためにもらえた臨時の予約日だった。歯科医につき、車で送ってくれた妻が、車の踵を返した直後に気付いたことがある。肝心の、はずれた差し歯を持参することを忘れていた。慌てた。両手を振って叫んだが、妻は気付かない。数10m先の信号の点滅が始まった。私は思わず走り出していた。

 何年ぶりの事だった。もうダメか、と心臓の動悸が気になったが、信号はまだ赤だ、と思い直して駈けた。頑張った。それがいけなかった。

 車の中で、息せきながら事情を話し、妻に叱られ「その通り」と思った。「私が帰り着く頃に電話を入れ、『もってこい』と言ってくだされば、それで済むことでしょう」

 なぜ走り出したのか、と考えた。そういえば「幼児の頃に」と、思い出した。母に、同じようなことを言ってよく叱られたものだ、と過去を振り返った。

 この思いでを振り返っておいたおかげで、この度はブレーキを効かせられた。ヤーコンの畝に忍び込んだ竹の根の誘惑にかられずに済んだ。

 少しずつ、学習を重ねたい。当週の収穫の1つだ。