この日は、リーダーを含めて3人の女子学生と、2人の男子学生だった。この5人と私を含めた6人が取り組むテーマは、派生テーマも含めると、合計7つになった。
そのうちの3つの仕事は、書庫の工事が生じさせた後始末だった。その1つは3つの大きな木の根の移動だった。目障りにならない所へ、しかも有効に(最低でも堆肥として)活かせる場所に運び去ることだった。残る2つは、重たい石の移動と塗装だ。
大きな木の根の移動は、大勢の人手を必要とし、合力すると楽しい仕事だから、この日が来るのを待ち望んでいた。他の2つは、何としても学生に体験させたいテーマだった。問題はその1つが、雨で(学生来訪の機会が2カ月も飛んでおり、それが災いして)余計な仕事を1つ派生させていた。それはさび落としだ。
この工事(石組みの池をつぶし、その上に書庫を建てた)では、沢山の石を動かさざるをえなかった。その中に3つの大石が含まれていた。そのうちの2つは、すでに妻と2人で動かして、活用済みだったが、残る1つは妻のススメで残した。学生に、重い石などの運び方や動かし方を「経験してもらい、学んでもらっては」との提案だった。
よほど妻は「あの体験が、印象深く残ったのだろう」と私は思った。コンクリ花壇を10m近く移動させた体験だ。妻は女性の非力が悔しいようで、テコの応用など非力を埋める知恵や工夫を直に体験した時はとても喜ぶ。その喜びを学生にも、と思ったようだ。もちろん妻も、テコの応用ぐらいは学校で、机の上で、学んでいたはずだ。だが、ここに嫁いで来てからカラダで覚えるようになり、カラダで覚えないと咄嗟(とっさ)の時には体が動かない、ということをイヤほど学んだようだ。
この日も、妻は「よく覚えておくのよ。大災害に襲われたときにカラダが勝手に動くようにしておくのヨ」と言ったような助言をしていた。
塗装も経験しておいてもらいたかった。少し早めに適切に手を施せば、耐用年数を何倍にも伸ばせるものだ。その塗装のテーマとしては2つ用意した。
1つは、大工さんに造ってもらった3つの鉄筋アーチ。その錆止め塗装はコールタールが適切である、と学ばせたかった。これは、壬生寺の貫主、松浦さんに学び、実施。そうと知ってからロンドンを訪れた折に、黒い鉄柵でも(その有効性を)追認した技だ。だが、この日までに鉄筋アーチを2カ月も雨ざらしにしていたものだから、さび落としという何倍もの余分の労と時間を要する仕事を派生させていた。
もう1つは、木材の防腐塗装だ。30年前に手作りしたユーティイティの塗装のし直しであった。こまめに塗装などをし直し、腐食を防ぐと、格段の耐久性を発揮させられる。その典型は木材だろう。現役で試用中の世界最古の建築物は木造で、日本にある寺院だ。もし手立てが悪く、雨漏りなどを許せば、数年で朽ち始めかねない。
いつも私は、この人たちが結婚し、子どもを設け、子どもたちと一緒にこうした技を活かす生き方をしてくれたら、これこそ本当の躾、躾の基本の1つになるだろう、と思っている。衣食足りて礼節を知るではないが、礼節を重んじるための基盤作りが必要だが、そのための学習こそが本当の躾ではないか、と思っている。少なくとも次代を豊かに生きる不可欠の知恵になるだろう、と期待している。
わが家が豊かに見えるような暮らしを手に入れているとすれば、その秘訣のすべてはここにある。裏返していえば、貧富格差がつく時代にあって、工業社会という「集金システム」にのみ込まれ、あるいは巻き込まれ、じり貧にならずに済ませる秘訣はここにあるはずだ。それを学生にカラダで学ばせたい。
さて、3つの大きな木の根の移動。この望ましき実施のためには、3つの準備が求められた。まず、合力の意義と楽しさを学ばせるために、私も含めた6人で担ぐことにした。だから、担ぎ出す太い竹を用意する必要があった。
次いで、運び込む「場所決め」と、仕上がりの姿。そして、そこまで担いで歩く道の「ルート決め」とその整備が求めれれた。
運び込む場所は、屋敷の南西の角(かねてから、落ち葉を積み上げていた所)を選んだ。ルートはそこまで2本あるが、一度だけ方向転換すれば済む直線コースを選んだ。だが、日当りの良い石畳道には植木鉢を沢山並べていたので、一時的に外して置く必要があった。
太い竹は、目星をつけて置き、学生に切らせることにした。2人の男子学生が志願したので、その間に、3人の女子学生には、大きな木の根についた土落しを始めてもらった。竹が切り出せた時点で全員集合。その竹の枝払いは、全員に経験してもらった。
その上で、門扉のそばに全員で戻り、全員で土落しを仕上げ、適度に落とせたところで、電動チエーンソーの使い方も教えた。大きくはみ出した根を切り取らせたわけだ。
かくして、ブルーシートを被せて放置していた3つの木の根を運び去ることができた。だが、この間に妻の茶々問題があったがそれは後に回し、木の根運びを無事に済ませた後の作業に移る。
5人の学生は手分けして3つの作業に取り組んだ。2人はユーティリティーの塗装。1人はディスクグラインダーでのさび落とし。残る2人は、囲炉裏場の整備だ。
囲炉裏場には、過去3カ月近い間に溜まった剪定クズが積み上げてあったし、薪にした分も積み上げたままになっていた。薪は保管場所に移動させ、剪定クズは燃やしたかった。そこで、この2人には薪積みも経験してもらった。また木くずも立派な燃料であることを体得してもらうために、後生大事に保管する術も学んでもらった。
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