段取りの良さ

 

 親指を損傷するなど思ってもいなかった。1日前倒ししたルーチンワークの後、除草中に指を傷め、「シマッタ」と思った。その瞬間「ゾッ」とした。

 段差30cmほどの石囲いの花壇から降りようとしたときのことだ。石囲い沿いに高さ20cmほどのフェンスがある。これを跨ごうとして、脚が十分に上がっておらず、カラダは前のめりになっていた。モンドリ打って頭から落ちた。その折に、左手の親指を、体重をかけてフェンス引っかけ、スッテンのところで逆さにもぎそうになった。

 「シマッタ」と思ったが、後の祭りだった。その瞬間、私は咄嗟の判断を下した。「疼きだす前に」と、畑に走った。幸い、ビッコは引いていないし外傷ない。スコップなら「まだ、使える」。それは、私なりの時間差を利用した1つの賭けだった。

 「雨が降る前に」と、予定していた畝の仕立て直しを強行することにした。ここで躊躇して庭仕事を切りあげたら、その後は痛みで一両日はスコップ仕事が出来ないだろう。その後雨が降れば、その日数だけ畝の仕立て直しが遅れてしまいかねない。

 この、無為に過ごしかねない日々を、指がうずきだすまでの時間差を活かし、畝を仕立て直したらどうなるか。活きた日々にできるはずだ。畝に鋤き込んだ有機肥料を土になじませる有意義な数日にかえることができる。そう咄嗟に判断した。そして一畝仕立て直した。それがヨカッタ。その後も久しぶりに梅雨らしい日々が続いた。

 まずラッキョの短い畝(4カ所で育てた1カ所)に手を付けた。収穫し、その跡を、何ら施肥せずに畝の形に整えた。掘り出したラッキョは妻にバトンタッチ。

 次いで、隣のネギの畝(3カ所で育てた1カ所)に移り、ヒコバエ(薹を立てて種を付けた分は既に枯れ、脇から芽吹いた)を掘り出した。そしてラッキョの跡に植え付け、木灰のみ施肥。このネギは、肥料不足で大きくは育たないが、それでよい。「うどんや納豆の薬味」にピッタリだ。

 ヒコバエを掘り出した跡は、大量の腐葉土など有機肥料をタップリ鋤き込み、仕立て上げ、雨を待つことにした。上手く雨が降れば、数日で種をまいたり苗を植え付けたりできる状態になる。この「待ち」が、有機栽培では大切だ。

 「こうして(話し合って)いる間も、畝の土は刻々と熟成しており、他方、親指の疼きは刻々と和らいでゆく」と、学生に語った。
 

掘り出したラッキョ

脇から芽吹いた

「うどんや納豆の薬味」にピッタリ