この日から2日の間で、考え込まされることが多々あり、心に決めたことがある。他の人に「精神論」を強いるのはどうかと思うが、自分には強いても良いのではないか。そう私に考えさせたキッカケは金太だ。
金太の加齢現象の進み具合を見るにつけて、「墓穴の用意を」とかねがね考えてきた。このたびの妻の留守を「その好機」と見た。
ケンの場合は、大型犬に近かった(シェパードの血が入った)ので、もはや私の手には負えないと見て、伸幸さんに泊りがけで掘りに来てもらったが、金太は小型のたぐい(柴の血)だから、今の私の手で2時間もあれば充分、と読んで手を付けた。
だが難儀した。とにかく暑かった。選んだ場所が藪の一角だから、ヤブカも集まって来た。そうこうしている途中で金太の悲鳴。
駈けつけて、驚いた。紐製の長いクサリを胴にまきつけ、金太は横に倒れていた。同じ方向にグルグル回るクセが災いし、ねじれあがった紐が胴に絡みついたわけだ。往年の金太では考えられないことが生じていた。
ハッピーの場合は、こうした時はパニックになり、からんだクサリを解こうとする私の手にかぶりつこうとした。だから、まず金太をなだめ、とりかかったが、金太は救助だと先刻
承知で、なされるままだった。鎖のカギを外し、からんだ紐をとくと、往年なら即座に逃げだすところだが、逆に私のカラダにべったりとへばりついてきた。
「これだナ」と思った。妻が可愛くなったという根拠だ。
同じことが生じないように、と思案した。結果、長い紐を天井からつるす形にすれが絡みつくことはあるまいと考え、その疑似形態を採用した。犬小屋にアンカを引き込んだ時に立てたポールがあるが、それに紐の端を結わえた。そうこうしている間に妻が帰宅。妻は、この疑似形態をほめた。
すでに陽が傾きかけていたので「木漏れ日の下での日光浴はオシマイ」とばかりに。金太を抱きかかえ、風除室に連れていった。その折に、金太に「ハイが、たかり始めましたネ」とつぶやき、気にしていた。
その後、妻が再び金太を心配し、「死臭が出始めるのでしょうか」と語り掛けて来た。先代ハッピーの末期を思い出したようで、「ボツボツ(金太の墓穴を)用意しましょうか」と言いだした。観念した私は、すかさず妻を引き連れて、未完成の墓穴に案内した。
「あとは私が掘ります」というので、まかせ、私はヒヨ対策に移った。
翌朝、PCの人であった私は金太の悲鳴にまた驚かされた。座を離れる間もなく、妻が飛び起きてきて、風除室に走った。そこで1つの謎が解けた。
以前から「なぜこのような細工を(妻が)したのか」と不思議に思っていたことがあったが、理由が分かった。
「そのまま。写真を撮るから」と言って、金太にはしばし気の毒なことをさせ、加齢現象の一端を記録した。わずか3cmほどの溝にはまって身動きならない金太を妻は引き起こしながら「オシッコをしたのね」と語り掛け、抱きあげて、洗い場に連れて行った。それで分かったことがある。「どうしてこんなに(バスタオルが)必要なのか」と不思議の思っていたことがあったからだ。私の野良着用の洗濯機は、愛犬の洗濯機と兼用だが、近ごろはまさに犬用と言ってよいほどになっている。
金曜日のこと。翌日は雨と知り、妻が仕上げた金太の墓穴に雨除け板を被せた。
妻には、これで2度、母と金太の2度、介護に当たらせたことになる。この二者に比べるとケンとハッピーの介護期間は短かったが、この3頭はそれぞれ異なる(ケンは後ろ足がきかなくなり、ハッピーは全盲)介護が求められた。
妻の手にかかると、犬はいずれもが長生きし、それゆえに最後はいわば醜態を示し、妻の手を焼かせたことになる。わたしも同じ道を歩むのではないか、と心配した。
問題は、金太が初めて認知症状をあらわにしていることだ。でも、それが、金太をとても可愛い存在にしたが、それは互いに幸運ということだろう。私の場合はどうなるのか。
そこで、私は何とかピンピンコロリを、と心に強く願うようになった。
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