厳しいご指摘

 


 「まるで(観光客にとっては)アリジゴクですね」との指摘にハッとさせられた。と同時に、偶然の一致に驚かされた。というのは、前日、学生を見送ろうとしていた時に、テラスに1匹のハンミョウがやって来た。久方ぶりにハンミョウを見た妻は喜び、学生に「別名ミチアンナイともいうのヨ」と教えていた。

 実は、ハンミョウも幼虫の時期は、アリジゴクと同様に身を土中にかくして巣くい、餌食がやってくるのを待ち受け、陣中に引き込んで食い物にする、という。そうと知っていた私は、厳しいご指摘にことのほか恐縮したが、ココロは冷静だった。

 ミチアンナイしろ、ハンミョウにせよ、必死の思いで生きているはずだ。そのような星の下で、この虫は生まれ、世に存在するのだろう。不用心な虫を餌食にして、互いに進化しあっているわけだ。そう考えているうちに、ココロが穏やかになった。

 もちろん、ミチアンナイやハンミョウはそれでよいが、人間がミチアンナイやハンミョウの幼虫のごとき一時を過ごしてよいものか、と考えてしまった。ブラック企業という言葉があるが、経営はまだしも、従業員は気の毒でならない。

 そのようなことを考えながら厳しいご指摘に耳を傾けていたら、「お宅さんこそ被害者ですね」「八つ当たりのようなことをしてしまいました」「申し訳けありません」と言ったような言葉を並べ、この人には穏やかに引き取ってもらえた。

 「ハンミョウのおかげだ」と自然の営みに感謝した。


 

ハンミョウ