意味

 

 この人はとても努力家だし、正直者だろう、と思った。同時に、奥さんをハラハラさせているに違いない、とも感じた。それは、創造的な人の陥りがちな境遇だ。創造の喜びに目覚めた人の、いわば欠点であり、弱味でもある。ただし、私にとっては魅力だ。だが、今の世の中では浮かばれないことが多い。職人気質は割の合わない時代だ。

 勝手にそのように感じてしまい、なんとか割りが合う生き方をしてもらいたくなり、2時間余も語らうところとなった。言わんとしたことに気付いてもらえたらありがたい。気付く人が多くなり、「創る喜びに」にひたる人が増え、そうした人の生業が高く評価されるようになれば、日本は救われる。

 要は、創る喜びに目覚め、己の機能を拡大する道具や設備などをドンドン整えだすと、生きる真の自信が身に宿り始めるが、それが欠点や弱味になる。道具や設備など己の機能を捨てがたく、いとおしくなり、時代の変わり目では身の振り方に遅れがちになる。

 その点、つぶす喜び志向の人は強い。しかも、権力を握ると怖いほど強い。その典型は、好戦的になることだ。うっかりこの類の権力者に惑わされると、弱気物はひどい目にあわされる。勝ち戦であれ、多くの犠牲を強いられる。こうした点を、『七人の侍』は見事に描き出している。

 このような、途方もないことを考えながら、この人を見送ったが、なんとかこの人にも幸せになってもらいたい、と切に願った。

 見送りながら、さらに途方もないことを考えた。こうした人が増えなければ、日本は工業社会の成れの果てを演じてしまうに違いない、と思った。今の政権はその浮かばれなない方向をめざして余念がない。それは早晩、明らかになるに違いない。

 近ごろ、1つの不安に駆られている。日本も、トランプ現象を笑っては見ておれないのが実情、と見始めたからだ。だから、あえて皮肉を込めて言えば、トランプが大統領になった方が日本のためにはよいはず、と思い始めている。米軍の沖縄撤退に結び付き、日本は虎の威を借りたキツネのような意識から脱却せざるをえなくなる。謙虚になってアジアの中の日本を目指さなければならなくなる。それがアメリカのためにも良い、と思う。

 そうなれば、あるべき日本の姿は大きく変わるだろう。永世中立を誓い、身近な国々と仲良くして信頼される国にならなければならない。まさに人財を誇り、憧れのまなざしを注がれる国にならないと生き残れない。そうなったときにこそ、日本の国民は力強く生きて行くに違いない。これまでは、地べたにへばりつき、無から有を生み出さなければならない田舎者には割の合わない時代である。だがそれが逆転すれば、話しは一転するに違いない。トランプ現象はどうなるのか。イギリスも、これに似たような道に迷い込む可能性が半分はある。その劇の結末まで見届けられそうだ。「楽しいナ」と思った。

 当週は、こんなことを週の初めに考え始めた。