アイヌ犬

 

 長津師匠は電話で、帰途の車中でシカの侵入を防ぐ策をあれこれ考え、アイヌ犬を飼ってはどうか、と提案してくださった。この案に私は飛びついた。

 アイヌ犬は買主に忠実なだけに、他には厳しく、敏感に反応し、吠えたてもする性質らしい。その犬の活かし方を語らった。イノシシスロープに長いワイヤーを張り、自由に走り回れるようにしてはどうか。私は、この対極に位置する金太や、ケンのこと。あるいは今は亡き前科(噛みつく)7犯で死んだ2代目ハッピーのことを思った。2代目ハッピーがいた時は、シカはもとよりサルの被害もなかったように思う。

 長津師匠の電話は、思い当たるフシに当たってみるが「期待せずに待ってください」で終わった。2日後に再度電話があった。

 何十年ぶりかでアイヌの知人にも電話をし、得た情報が寄せられた。アイヌ犬も、今やクマにも臆せずに立ち向かうような気質は好まれず、そうした血を受け就く犬は少なくなったようだ。でも、心当たりに当たってみる、しばし待ってほしい、と知らされた。

 昨今の金太は、妻の支えで命を長らえている状態で、明日のことも知れない。次の犬をどうするか、真剣に考えざるを得ない。これが最後まで面倒を見ることができる1頭になるはずで、おそらく最後のチャンスだろう。

 アイヌの人に会いに行くことや、連れて来てもらう案などが頭の中を駆け巡っている。長津師匠の提案であり、アイヌ犬と聴いて興味を持った。こうした話なら妻も賛同のはずだ。それにしても、と考えた。長津師匠は、何十年ぶりかの電話で、たちまちにして動き出す人に恵まれているわけだ、うらやましい。