時、既に遅し

 


 この日曜日も、嬉しい朝のコーヒータイム(テラスの掃除が好き、とおっしゃる妻の東京の生徒さんと過ごすひと時)に恵まれ、猛暑を話題にした。

 後藤さんと巨大HCを訪ねた時に、パーキング場では背中が焼けるような暑さも実感した。それでもまだ、泉で生じていた悲劇に頭が回らなかった。

 油断大敵とはよく言ったものだ、と思った。今年は梅雨じぶんに、幾年ぶりかで梅雨らしい梅雨に恵まれ、安堵した。その記憶が油断の原因かもしれない。あのシトシトと雨が続いた久方ぶりの梅雨らしい長雨は何だったのか。土中は水分に満ち溢れ散るはず、と思い込んでいた。

 井戸枠水槽を作って30年になるが、これまでに水位が40cm以下になったことはない。それ以上は下がらないもの、と思い込んでいた。それが2日と要せずに−80p程になった。木曜日にはこの通りに。なぜここまで急激に土中水分が抜けてしまったのか。土はどれほどの保水能力を有しているのか、とても気になる。

 今となっては、枯れることがあり得るのか否か、確かめたくなっている。もちろん、枯れる直前にキンギョは救いたく、目が離せない。

 今年は台風の発生が遅れた。しかも未だに襲われていない。これは幸か不幸か。幸と思いがちだが、私はこれを不幸と見る心構えも養いたい。

 このたびの異常渇水に気づき、1日前に点検し、落ち葉をすくい取っておれば、キンギョは今も(8月13日土曜日夕刻時点でも)死なせずに済んでいたわけだ。 箕(み)に3倍分ほどの落ち葉を取り除き、モミジの苗木やウドの根元にマルチングした

 妻は、前日(金曜日)から自発的に「節水作戦」を始めたが、それはその2日前の失策(水道栓の閉め忘れ)に学んだのだろう。網田さんと出掛けた「朽木の集い」から戻った朝、私が気付いた水道栓の閉め忘れだ。実は前日、妻は私たちが戻る車を温室で待ち構えていた。温室で近づく車に気づけば、走れば門扉を開けて迎えることができる。あいにく車は、水瓶に水を張っている最中に帰って来た。

 門扉を開け、コーヒーは「冷たい方がいいですか、それとも」などと話しかけながら門扉を閉じ、そうこうしているうちに蛇口のことなどスッカリ忘れてしまったのだろう。

 翌朝、私は「朝飯前のひと仕事は割愛」と決めていた。だが2日ぶりの庭に出たくなり、温室に近づいた時に激しい水音に気づいた。「早起きは三文の徳」と思った。朝は水圧が増し、ホースが暴れて温室の中で水を吹き散らかしていた。

 おかげで、朝飯前のひと仕事に手を付けながら、妻が朝の収穫に出てくるのを待つことにした。自然生えのキュウリもツルを伸ばしていた。妻が出てきた。「おはよう」と明るい挨拶ができた。その時に「早起きは三文の徳だねえ」とのことばがついて出た。それがよかったようだ。

 すぐに妻は思いだせたようだ。「どうしよう」「今月の水道料金が心配です」とつまらない返答をした。それもヨカッタ。「水道代金の問題ではない」と、いつも私が言いたかったことが口から出た。「問題は、風呂に張っておれば何杯分かの水だ」「畑にまいておれば、どれだけ野菜が喜んだことか」「水に、申訳のないことをしたわけだ」と、私は思うところを率直に指摘することができた。

 妻はすぐさま「アリヱさんは今頃」と反応した。これもヨカッタ。アリヱさんは牛深(天草の果て)で知り合えた今や88歳の女性のことだ。恒常的、歴史的に水不足に悩まされながら農業に勤しんできた人だ。妻は、そのアリヱさんを思い出した

 私は、2匹のキンギョに次いで、ロンボク島(インドネシア)を思い出した。バケツを手に谷底に降りて、しばし水遊びをした上で川の水を汲み、アタマに乗せて運び上げていた子どもたちの姿だった。母親はその水を大切に使い、汲み溜めた甕の蛇口から糸のように細い水を出して食器を洗っていた。無医村だったが、風邪や腹をいためる人は先ず出ない、と聴いた。でると祈祷で直していた。免疫力に富ませる生活なのだろう。

 それよりも何よりも、とも考えた。昨今、テロが騒がれているが、テロはなぜ生じるのか。テロと文明の関係を掘り下げて考えておく必要がある、と思う。文明は、水道の普及をうながす。それは、ともすれば水を無駄使いさせがちだ。きっと、テロ被害とテロ加害を丁寧に分析すれば、1つの共通項として水の位置づけを取り上げてよいだろう。

 もちろん総体論だが、水のありがたみを意識せずに、ふんだん使う人と、水を命綱のごとく大切に用いなければならない人との間で生じているはずだ。

 文明は水を疎かにさせ、古代文明は水を育む森林破壊に走り、自らことごとく滅んだ。工業文明も水を疎かにさせており、気候変動問題にまで結び付けている。それは、工業文明国が自ら崩壊する以前に、周辺国から、つまり水を命綱のごとく大切に用いなければならない人から順に滅ぼそうとする宣戦布告である。

 これまでに私は、しばしば第3次世界大戦の真っ最中と語って来たが、私たち日本人はそれに最も鋭敏に気付かなくてはならない。さもなければ、第3次世界大戦でも敗北する。現政権はそれに気付かず、第2次世界大戦の尻馬にのった過ちの再現に走っている。


 

−80p程になった

落ち葉をすくい取っておれば、キンギョは死なせずに済んでいたわけだ

根元にマルチングした

アリヱさんを思い出した

アリヱさんを思い出した