思案の末

 

 2人の女子学生はスズメバチの巣、と口走っていた。

 アシナガバチの巣だと教え、そのとり除き方を学ばせよう、それも後学のためになるはずだ。そして、所期の目的である「雨で泥はね被害が出る壁面の塗装」をしてもらおう、とアタマで考えた。だがすぐに「待てよ」といつものようによびかけるココロがあった。

 しばし躊躇の末、所期の目的を放棄し、「私が後日、巣を取り去らずに、塗装しておく」と伝えた上で、予定外の2面の塗装に当たってもらった。

 「ハチも、攻撃したくて攻撃するのではない」「人間が大騒ぎして、ハチを驚かせるから刺されるンだ」「刺されても驚くことはない。むしろ喜ぶべきだ。免疫力を高めたり、抗体を造らせてもらったりした。ありがとう、と感謝すべきだ」と話した。

 「耐性菌」という言葉を誰一人知らなかった。やがて迎えるであろう時代を直視し、次代への備えや心構えを固めてほしい。そうせずに、希望に満ちた人生を送ることなどできるはずがない、と心配になった、だがそこまで迫るのは控えた。3人の女子学生は初めての来訪だった。きょうみがあれば再訪するだろう。そう思って控えた。

 学生が引き揚げた後、巣を温存することにして、私は塗装した。その当初、雑巾で吹き掃除をしながら考えたことがある。「虫を怖がったり、虫を嫌ったりする人が増えた陰に見え隠れしている文明の宿命」と「医療界の怠惰」、もしくは「医療界の陰謀」に想いを馳せ始めた。そして陰謀であればよいのだが、と思った。陰謀なら反省が早い。さもなければとことんまで気付きにくい。

 それはともかく、アシナガバチを大切にしなくては、と思った。
 


巣を温存することにして