長時間歓談


 これほどドラマチックなエピソードに満ちていたとは、と恥じた。ただの土壌改良剤ではなかった。この微生物を活かした土壌改良剤を「この庭で、あるいは愛犬の金太で試してみよう」と思った。100日ほどかかる堆肥作りでは、40日ないしは60日で済ませるという。既存の微生物も活性化するようだ。

 肥料効果を促進し、連作障害の抑制も期待でき、人の整腸にも役立つ、との説明に期待した。早速、妻に金太の世話で活かさせてみて、効果あり、と分かった。私は、近年移植した元気のない椿の根元にまき、その効果も確かめ始めた。

 私は信頼する企業の幹部に電話を入れ、樹木医でもある友人と連絡を取り、この効果のほどを組織的に確かめてもらうことにした。それは、優れた土壌改良剤であると見ただけではなく、それ以上の期待を込めたくなったからだ。大げさだけれど、人類が次代に移行する上でも有効、と期待した。

 それはともかく、私なりに見出した2つの異質なエピソードを、より実感として受けとめたくなった。1つは、意外な人たちの英知と愛国心に触れた思いであり、他の1つは循環型社会を構築する上で乗り越えなければならない課題、と気付かされたように思ったからだ。特に後者は、私には重き問題と感じられた。

 バクタモンが今日に至るまでには幾つものエピソードが伴っていた。バクタモン関連商品を製造販売する岡庭産業株式会社は、カタログに「バクタモン一筋65年」と記すが、私はそれ以前のエピソードにとても興味を引かれた。

 ことは敗戦間近の満州にさかのぼる。とても肥沃な土壌に目を付けた陸軍将官がいたらしい。その肥沃な土壌を本土に軍用船で運び込んだのは海軍中将・草鹿龍之介という。海軍の歴戦の勇士・草鹿中将は港に届けられた膨大な土壌の一部を、トラック1杯分だけを。かろうじて本土に運べた。草鹿中将がこの土壌を手にする前に、膨大な土壌を港まで運んだ陸軍将官がキットいたに違いない、という話だった。

 敗戦間近に、もし陸海軍の将官が計らって、大量の肥沃な土壌を本土に運び込んだという話が事実であれば、私はここに愛国心も見出す。私には、敗戦後の日本や、末裔への配慮とおもわれた。戦争に巻き込まれた犠牲者として同情するだけでなく、真の愛国心も見出した。

 余談だが、無謀な戦争を始めた上層部関係者には無責任な利己心と意志力の欠如などしか見いだせないが、それらの配下として戦争に巻き込まれながら、あろうことか大量の土を、その地位を活かして貨車と軍用船で引き継ぎ、本土に持ち込んだ想いに、私は異様に感激した。到底私には及びもしない勇気と愛国心を感じさせられた。

 もし、科学的知見に富んでおれば、膨大ではなく、少量ずつ周辺でサンプリングしただろう、などと考え、その想いに心を打たれた。

 この本地に運び込まれた土に目を付け、肥沃さを解明した人は当然分かっている。吉岡藤作教授だ。その時から「バクタモン一筋65年」、と私は解釈した。

 もう1つの現実に、これもドラマチックなエピソード、と私には感じた。現在もバクタモンを培養して袋詰めにして販売している製品に、コーヒーの絞りカスと、米糠を用いた製品がある。そのコーヒーカスと米糠の供給が、近年はピンチになっている、と聞かされた。理由は、工場で一括して絞って製造する缶コーヒーの売れ行きが激減したためだ。また、工場で一括して精米されるコメの量が減ったためだ。

 それは、コンビニで始まった100円コーヒーの人気であり、家庭精米機やコイン精米所の普及である。消費者の「口には良し」だが、コーヒーカスと米糠をゴミにしており、「消費者を乗せた宇宙船地球号をピンチ」に近づけている。これはまさに文明の本質である。

 その積み重ねが、竜巻やゲリラ豪雨などの原因であり、南北問題の根であり、さらには皮肉なことに同国内の貧富格差も深刻にしている。このエピソードは深刻だ、と思う。
 
海軍中将・草鹿龍之介