辟易とさせられた
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行きつけの歯科医は、午後は2時以降でないと受け付けない。ちょうど私も、予約を入れたい時期にさしかかっていた。 妻は、かねてから進んでいた虫歯が、ここにきて急に痛み出した。私の方は、歯科医に詫びないといけない案件だった。嚙合わせ相手がない奥歯が1本あり、それが虫歯になったが、その驚くべき進行(空洞を広げる)状況に興味を抱き、観察を楽しんできた。要は、自然に歯が抜けるのを待ち、虫歯菌と加齢の現実を妻にも目の当たりにさせたかったわけだが、その前に、虫歯が隣の歯にも移り始めた。 そこで昼食の後も、2時まで「新聞の整理でもしながら」居間に溜まり、私が「予約を入れるヨ」となった。このところ、TVなどで知るトランプのツイッターと、それに即座に呼応する大企業の経営者のありようが、西部劇の無法者と酒場のオッサンの光景とダブって見え、辟易していた。 同時に、多くの大企業の経営者ほど、『沈黙の春』にかつてピンと反応しなかったことも思い出した。そこに「資本主義社会」と「民主主義」の限界を見出だし、サラリーマンを辞めていながら、と反省した。もちろん、サラリーマンを辞めのは、「資本主義社会」や「民主主義」を容認する文明に疑問を抱いたわけで、この点をもっと丁寧に、著作活動で掘り下げた置くべきであった、との反省だ。 その目にまず「ギョッ」とする広告が飛び込んできた。ある「原因」と「結果」を端的に示す写真である。過日、私でさえ疑問を感じた問題の提起だ。この「原因」と「結果」のアンバランスは次元を超えていると気付く人を「読者にしたい」との願いを、ここに見た。 もう1つ、かのヒトラーですら、と思わせられた記憶もよみがえった。過日、録画してあった番組で知ったことだが、それはヒトラ―の一面である。その時も、この「原因」と「結果」のアンバランスに気付かず、パフォーマンスを優先したわが総理を思い出しており、辟易度合いを高めていた。その情けない思いが、この広告への共感を深めたようなところがある。 NHKの報道によれば、ナチスドイツは原爆の原理を招致していた。しかも大量のウラン鉱石も手に入れていた。だから亡命したアインシュタインはあわてて、「ナチスより先に」とルーズベルトに原爆開発を促した。かくしてオッペンハイマーが所長になってマンハッタン計画が始まり、8月6日と9日の非道なる惨事に結び付いた。 問題は、ナチスの現実だった。ヒトラーは弾道ミサイル(V2)を開発させ、実用化していながら、原爆の開発を許さなかった。原爆は「ユダヤ的」な武器と見て、開発許可を出さなかった。そう言われてみれば、とその後の歴史を振り返って得心した。アインシュタインは元より、原爆の父オッペンハイマーも、水爆の父エドワードテラーもユダヤ人だ。さらに、第1次世界大戦時に毒ガスを開発し、ドイツに多大な貢献をしたフリッツハーバーもユダヤ人だった。フリッツハーバーはナチスドイツから亡命を余儀なくされ、ヒトラーはその毒ガスをホロコーストで用いている。 私はヒトラーを擁護する気などさらさらない。いわんやユダヤ人を非難するつもりなど毛頭ない。ユダヤ人にはむしろ同情している。多々のつき合いを通してその穏やかで友和的な人たちであることを知っている。それだけに、余計に気になることがある。 追い詰められたら窮鼠猫を食むような心境にならざるを得ないことがあるからだ。わが国の「カミカゼ」もその恒例だし、かつてのベトナムや昨今のチベットで視る僧侶の焼身自殺、あるいは自爆テロに走るイスラムの女性も同様だろう。問題は、そうした悪しき状況に追い込むところにある。その目で見たら、現近の日本はまたぞろ危険な方向に誘われている。 戦前のごとくに、様々な手を駆使して追い詰めようとしている。例えば、「非正規雇用」にメスを入れず、生活苦を助長する。盗聴法などで口にチャックをざせようとする。あるいは未来世代へのつけ回し、など。内閣改造後の記者会見で「同一労働同一賃金を実現し『非正規』という言葉をこの国から一掃します」と啖呵を切ったが、今や非世紀が4割だ。未来世代へのつぃけ回しとは、原発電気の大事なコストを抜いて計算し、安いと言って使わせ、後で大事なコストが確かになると未来世代に付け回す。こうした締め上げ方があっていいものか。 それはともかく、歯科医の予約はうまくいった。今すぐなら「キャンセルがあったので」受け入れられるが、さもなければ次週の後半、と知った。妻を送り出し、やおら庭に出て、畑にたどり着いてビックリした。ダイコンの被害は5本におよんでいた。サルは私たちが好む辛い部分を残しており、少しは気がまぎれた。 |
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ダイコンの被害は5本におよんでいた |