「方丈」の大工仕事に当たってくださる大工さんが、ときどき作業をし終えた部分を写真に収める姿を目にしてきた。その訳がこの度、分かった。
この大工さんといつも、午後のお茶の時間に私が庭仕事をしている場合だが、一緒にお茶を飲みながら気楽な会話を楽しんできた。大工道具のありようや手入れの仕方。大工界の徒弟制度のありようや想い出。機械化の是非などを語りあった。その1つとして、このたび、「方丈」の仕事のありようや、取り組んでみての印象や感想が話題になった。
これまでに「方丈」では、水道、電機、あるいはガスの配管は済んだ。後は、流しやトイレなどが設置出来たらつなぐだけだ。屋根は葺き終えたし、排水設備の敷設も終わっている。それらの作業に当たった皆さんはそれぞれ腕が確かなだけでなく、ネンジャだし、楽しそうだった。それはもちろん乙佳さんと親方の職人の人選が良いのだろうが、それだけではなかったようだ。そこで私は、「方丈」の仕事に取り組んだ印象や感想が話題になったのを好機とみて、膝を乗り出したわけだ。
この大工さんによれば、昨今の大工仕事は大きくは二分される、という。建売住宅のように、決められた作業をいかに手早く正確にこなすか、が何よりも大切にされる仕事がある。昨今はこれが増えている、という。対して「方丈」のように、大工にとって創造の余地が大きく、工夫が随所に求められる仕事もあり、「私はこれが楽しい」と、この大工さんは話した。だから、作業がうまく運んだ時はとりわけ、写真に収めている、と語った。
実は、この点こそが私の望むところだった。オーケストラのごとくに、関わった人のテンポや息などが一致し、仕事を一緒にしていること自体が楽しくて、その楽しさこそが最大の報酬のごとく感じられる仕事が望ましいし、しごとはそうであってほしい。学生時代にラスキンの『ベニスの石』に触れたことがあるが、その時以来、かく願ってきたこと、と言ってよく、この日のお茶はとりわけ楽しかった。
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