1つの難問

 

 乙佳さんに、「天井裏を覗きましょうか」と、言ってもらえた。かねてから、イタチなどが侵入して困らされて来たことや、今は野良ネコが住処にして、子ネコが運動場かのごとくに暴れまわっていることを、苦情のごとくに訴えていた。それだけに、乙佳さんの積極性に感謝した。

 「ヨカッタ」とも思った。先週のちょっとした大工仕事をしておいてヨカッタ、と思ったわけだ。苦情を訴え、丸投げし、成果だけ求めるやり方は私には似合わない。このちょっとした大工仕事を見てもらうことは、乙佳さんの役にも立つはずだ、と思えたからだ。ならば、天井裏を「わが家の蔵」にしようと思った時の、細工も見てもらおう。妻と、「わが家の蔵」の壁面(板)張りをした時にこしらえた扉のことだ。今後、乙佳さんならきっと、このアイデアを活かすだろう。

 乙佳さんはまず、この度こしらえたのぞき窓に上体を突っ込み、大声を張り上げた。「大きな穴がありました」。夕刻のことだ。西日がその穴からまともに差し込んでいた。

 この「のぞき窓」をこしらえたおかげ(?)で、実は野良ネコ母子がいなくなっていた。それも幸いした。「今ならまだ、大工さん(は仕事中なので、帰りがけ)に(補修を)してもらえます」と言って、乙佳さんは階下に降りた。間に合った。帰り支度の大工さんを呼び止め、依頼した。

 おかげで、大工さんは屋根の上を動きまわり、4カ所の穴を見つけ、塞いでくださった。これでもし(新たな穴をあけられt利するまで)侵入を塞げたら、長年の懸案が解消だ。

 それにしても、穴をふさぐために用いた針金製やプラスチック製のネットを買い溜めて置いてあったのがヨカッタ。針金製の方は、58年前に買い求めたものだ。学生になった年の春に、鶏小屋をこしらえたが、その時に買い求めた一巻きの金網の残り分だった。

 私はいつも、必要な資材は、必要な分を測る時間を節約し、これなら余るはずと目論んで購入する。その余剰は少しも無駄だとは思わない。もちろん、きっといつかは役立たせたい、と思ってのことだが、この針金製のネットは、半世紀にして活かせた。

 「では、後日に」と、資材の手当てをしていたら、結果は、むしろ安くついたかもしれないが、泥縄を編むようなやり方ではドラマになっていなかったと思う

 この間、乙佳さんが帰りがけに「天井裏を覗きましょうか」と言ってくれた時から、長年の懸案解消までの間は、20分ほどだったと思う。

 

「わが家の蔵」の壁面(板)張りをした時にこしらえた扉