戦後72年目にしてやっと分かったことも沢山あった。取り分け次の5編は、いずれもNHKの番組だが、私の心に強く焼き付いた。
NHKスペシャル「幻の原爆ドーム ナガサキ 戦後13年目の選択」
「戦後72年の郵便配達」
ETV特集の「告白〜満豪開拓団の女たち〜」
BS1スペシャル「なぜ日本は焼き尽くされたのか〜米空軍幹部が語った“真相”」
NHKスペシャル「731部隊の真実〜エリート医学者と人体実験〜」
以上の5編だ。
ナガサキにも、いわば「幻の原爆ドーム」があった。爆風に耐えてかろうじて残った聖母像などが痛々しい長崎の天主堂のことだが、今や跡形もなくかき消され、新たな教会堂が立っている。それはどうしてか。
多くの市民たちの悲壮なまでの保存要請を退け、ともに渡米経験がある2人の日本人男性が取り崩してしまった。1人は教会を再建した牧師であり、もう1人は時の市長であった。その敗戦後13年目にして下した選択に、この番組は迫った。
牧師は教会再建の寄付金を求めて渡米し、各地を回った。おのずと、廃虚と化していた教会堂や聖母像などを取り崩し、その跡に、新たな教会堂を建てたい、と言って寄付を求めるかっこうになっている。後年、牧師はこの寄付を求めた行脚を乞食旅行と自称する。
もう一人の男は、時の市長であった。とても人望があり、長年市長の席にあった人だ。保存を求める市民は署名活動まで始めたが、新生長崎の再建を願い、悲惨な姿をさらすこの遺跡を消し去るべし、とこの人は判断を下している。
時は今、キリスト教圏の人々と、イズラム教圏の人々がいがみ合っている。また、世界は今、核廃絶を願って動き出した。こうした問題の行方が、人類の未来を大きく左右しかねない。この廃墟のごとし無残な姿にされた天主堂が、今に残っていたら、人類史に大きくかかわりかねないこれら問題に対して、どれほどの影響力や説得力を有していたことか。
キリスト教圏の人々は、ユダヤ教を除き、他の宗教の人たちが原爆を保有することをとても畏れている。日本は今、その尻馬にのったかのような態度を示し、世界で唯一の被爆国である責任を果たしていない。ナガサキの「幻の原爆ドーム」が残こせていたら、キリスト教圏の人々のためにも大きな役割を果たせていたように思われ、残念でならない。
戦地では、明日の命も知り得ない兵士が、届くと信じて軍事郵便を記したものだ。だが、その膨大な数の郵便物が、戦地からアメリカに証拠物件や戦利品として持ち帰られ、それが今や、オークションでの売買対象にされ、日本人も買いあさっている。激戦地で記された数少ない郵便物ほど高い値が付くようだ。こんなことを日本政府は放置しておいてよいのか。
他方、多くの日本軍兵士を送り出した家庭では、遺骨はもとより、遺品のかけらも入っていない白木の箱を届けられ、そのまま今日に至っている事例が無数にある。番組では、その幾通かが遺族の手元に届けられた。
「告白〜満豪開拓団の女たち〜」では、年老いた引き揚げ女性の口から、意外な事実が語られた。敗戦間近に迫った満州で生じた出来事だ。ソ連軍に攻め込まれた地域では、在留邦人はそのソ連軍に身の保護を求め、引き揚げに成功したという人たちがいた。
日本軍は、在留邦人に気づかれないようにして引き上げたが、その後の在留邦人の立場は極めて危うくなった。やむなく見捨てられた邦人は、現地人の襲撃から身を守るために、ソ連軍将兵の力に頼ろうとしたわけだ。ソ連軍は邦人の無事引き上げに寄与する引き換えに、条件をだした。その将兵の求めに応じ、邦人は「接待」と呼ぶいわば人身供養を実施した。その「接待」要人として、邦人は夫を待つ身の女性は省き、未婚の女性に当たらせたという。
無事に帰還し、今や家庭婦人としての日々を送る人々が、やっとこのたび尊いこの証言をはじめた。72年と言う歳月を要した歴史を改めて考え直さされた。
「なぜ日本は焼き尽くされたのか」。その真相に、膨大な数の米空軍幹部の証言で迫った。1400万人の日本人を毒ガスで殺傷する計画もあった。日本軍がアメリカ軍に向かって毒ガスを使用した場合の報復作戦の立案だった。日本軍は、国際的に禁じられていた毒ガス作戦を秘密裏に、つまり自国民には秘密にして、中国などでは組織的かつ大々的に行っていた。
米空軍内では都市爆撃を強行し、ことごとく日本人を殺傷すべし、との機運が高まっていたという。なぜなら、人類史上で最初に無抵抗な民間人を対象に継続的かつ大々的に都市爆撃を始めたのは日本であったし、日本にはいわゆる民間人はいない、と思われていたからだ。
大々的な人類史上初の都市爆撃は重慶爆撃であり、日本国民は当時この成果を熱狂的に受け入れた。その日本国民は組織化され、こぞって英米鬼畜の意識の下に竹やりなど武装し、戦闘要員となって臨戦態勢を整えていた。米空軍幹部の間では、いつしか日本は組織化された軍人しかいない国、民間人のいない国との認識が広がっていたわけだ。
731部隊の活動は日本国内で今や知れ渡っているが、改めてその真実を明らかにする番組があった。わが国のエリート医学者は、捕捉した中国人を主とする実験台に供する人たちをマルタと呼びならわした、満州で組織的に人体実験を試みたが、その検証であった。
日本軍は証拠隠滅のために巨大なコンクリート施設の破壊を試みたが、破壊し切れずに残った。その巨大な施設の中庭に当たる中央部に、多数のマルタを押し込める牢獄のごとき社屋があった。その中で、日夜膨大な数の実験台が、手足を縛られるなどして病原菌を植え付けられたり、毒ガスを浴びせられたり、凍傷の実験台にされたりした。その成果は、中国の一般市民も巻き込む作戦に大々的に組み込まれ、実施され、膨大な数の中国人を犠牲にした。
この番組では紹介されなかったが、敗戦後の日米間で731部隊に関して恐ろしい取引が行われた。アメリカはこの人体実験の成果と引き換えに、石井731部隊長を始めとする要員を訴追しない。日本もこの事実を国民には知らせたくない。ここに取引が成立し、この問題も闇に葬られてきた。要は、わが国は加害責任をことごとく国民の耳目から遠ざけ、知らぬは国民ばかりなりにしてきたが、その一端の紹介であった。
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