なんとも嬉しい
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アリヱさんの一周忌があった。その形見分けが私にも、天草は牛深に戻っていたアリヱさんの娘・文子さんから届けられた。私にとってはこの上ない形見分け、文字通りの片身分けだ。まさにアリヱさんの身体の一部が届けられたように感じた。 私は(写真右端の私のカマのごとく)黄色の目印をつけるが、アリヱさんは赤い目印をつけていた。最も妻の心を揺さぶったのは、柄のとれたカマだった。すぐさま妻は座を外し、戻ってきた時には、私が加工したカマ(右から2つ目)を携えていた。そして「アリヱさんもご存知だったンだ」と口を切り、次のように続けた。 「孝之さんに(カマの)先を曲げてもらいましたが、草を抜く効率が、曲げただけで4割ほどアップしました」と、経験者でないと表せない数値を添えた。 私は次に、研ぎに研いて細くなったカマを話題にした。かつてどこかで知ったことだが、ある鍛冶屋のエピソードだ。その鍛冶屋の壁面には、もっと細くまで研いで使ったカマが沢山飾ってあった。それは、新品と交換した時に引き取った品だった。その鍛冶屋では、一文銭の穴を通るまで上手に研ぎながら使い、届けてきた人には新品と無償で交換した。それがその鍛冶屋の誇りであったのだろう。 「この小さな出刃包丁は、これから実際に引き継いで使わせていただくことになるでしょう」 この後、庭を散策し、2人の学生にも4人を紹介できた。この日の川上文子さんはいつもの友人だけでなく、シンガーソングライターも同伴だった。それだけに余計に話が弾んだ。 |
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その形見分け |
シンガーソングライターも同伴だった |