「こちら早朝の5時です」と、リズさんに礼のメールを入れると、即座に返事のメールがあった。フト、半世紀余昔の感動がよみがえった。入社前の社命を守り、入社数年で肺浸潤を克服し、人並みに残業が許されてから間なしの思い出だった。毎月100時間からの残業を楽しんだが、ある早朝のことだ。
アメリカの先輩社員と緊急交信が求められた。後輩社員と事務仕事に当たりながら早朝を待ち、電信室を訪れた。国際電話がとても高くつき、ファックスもなかった時代だから、テレックスが頼りだ。私の口述を後輩社員がタイプを打つ要領で電送する。ほどなく、コツコツコツと返事が来る。細長くて白い幅広のリボンのごとき紙に、丸い穴が複雑に開いている。その時のパンチカードは2メートル以上に達した。何が綴られているのかは分からない。だが4つの目はそのテープ見つめ続けた。
いよいよ解読。コード化したローマ字での表記を頭の中で日本語にする。「こちら雨で暮れようとしている」と始まった。なんだか、地球の裏側のことが分かったような気がした。この人に前日依頼されたことを調べ上げた上での報告だったが、応答となった。
後輩は、初めてパンチカードでのリアルタイムの意志疎通につきあい、上気した顔で、互いの意図と時差の移ろいがパンチカードを通して伝わる様子を眺めていた。
先輩社員の最後の一言が「SNS」だった。
「秋山君、これはナンジャ」
「深謝のことです」
私の心も熱くなった。今の「SNS」とはずいぶん違う。
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