1枚は、デートの時から奥さんになる人と選んでいた席だった。松岡満さんは今から31年前、1986年の春に就職。その初仕事の一環として誕生したばかりのアイトワへの納品もあった。だから、ノースモーキングにも興味を示し、写真家の柏岡布由さんに撮ってもらったのだろう
「何時も走っていましたね」と、その若かりし頃の納品するときの姿を思い出した。今は石の階段だが、当時はまだ丸太の階段だった。手すり(私が65歳で学校勤めを打ち切り、石の階段に代えた時に、母が滑って大腿骨をつぶしたのがキッカケ)もなかったし、書庫もなかった。円形花壇には竹のオブジェ(シカよけ)など昨年まで不要だった。
ケーキも写真に収めてもらっていた。たった1種だけど、31年間まったく同じレシピで作り続けている。イギリス出張で観た貧相なリンゴ「コックス」の話をした。
何百年も(と聞いた)前から、イギリス人が親しんできたリンゴだという。かじったりサラダに入れたりして生食もするが、パイとして焼いてもよい、ジャムとして煮てもよい。「仮に、だぞ」とロンドン支店の先輩は話し始めた。「ハムレットが、リンゴがうまい」と語っていたら、「これをかじればよいンだよ。その味わいをハムレットと共有できる。
松岡さんは、20年前に結婚し、やがて転職。住まいも京都から大津に転居した、と聞いたように思う。だがアイトワには訪れたくなり、「妻を亡くした今も」思い出の場所として時々訪れている
「明日が入籍の日なので」と、なぜか前日に、写真持参で訪ねてくださった。柏岡布由さんは、松岡満さんがケーキを食べおえ、屋内から出た時の姿も写真に収めた。帰路、小倉池のそばで、樹木が抱き込みそうになった道路標示も捉えた。当時はまだ、この表示は独立して経っていたはずだ。
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