加齢対策要員
 

 2年近く前に死んだ金太は、訳あって喫茶店客の目に付くところで飼った。くそ度胸があったし、ハッピー3世に「ついてきた犬」であったからだ。だから、誰しもからペットのように可愛がられ、まったく番犬の用などなさない犬になった。

 この2頭は、共に捨て犬(動物愛護)センターでもらった子犬だ。番犬になることを期待して、ハッピー3世を引き取りに行ったときに、妻が「目が合った」といっても、もう1頭連れて帰ってきた。その日は金曜日だったので、金太と命名した。怖がりで甘えん坊だったハッピー3世に番犬訳を引き受けさせ、2頭に役割分担させることにした。

 このたび、もう一度、生涯最後の一頭になりそうな犬を飼うことになった。それもこれも警太のおかげだ、と言える。警太を試しに飼い始めたことが、ハッピー4世と襲名させた犬との出会いになった。

 警太のうわさを聴きつけた女性が、まず訪ねて下さった。その後、ご主人(私がとても信頼する獣医)の助言も得ることができ、警太の飼育をあきらめた。ほどなくこの話に続きが用意された。

 後日、このご夫妻の提案に沿って、私たち夫婦はあるペットショップを訪ねることになり、4人で出掛けた。そこで、売れ残りで、すでに2歳になっていた柴犬と出会うところとなった。即刻引き取って、連れて帰り、飼うことになった。

 まず、私たち夫婦に甘える姿に驚かされた。怖がりであることも分かった。ならば番犬として育てたい、とうことで金太ではなくハッピーを襲名させることになった。

 この襲名は、警太で予定していたことだが、それはかなわなかった。それにしても、と思った。警太は人と目をまったく合わせようとしなかったが、ハッピー4世は終始私たちと目を合わせていたいようだ。それだけに法律とは恐ろしいものだ、と思わせられた。不思議にも思った。

 ハッピー3世と金太は、ともに動物愛護センターでもらった犬だし、警太は法改正後の動物愛護センターで出あった犬だ。このたびのハッピー4世も同じ運命をたどりかねない立場にあった。おのずと複雑な気分にされた。

 金太やハッピー3世は引き取り手がなければ、速やかに殺処分された。だが、このたび訪れた動物愛護センターでは随分事情が異なっていた。私など後期高齢は、引き取り資格に欠けていた。己の死亡後に飼育を引き継ぐ保証人を設けないともらえない。

 それはともかく、誰かれなくなつきかねないハッピー4世を番犬に仕立てなくてはならない。

 そこで、まず、棲み処をハッピー3世と同様に、居間の縁先にした。次に、散歩は庭内に限り、外の世界に触れさせないことにした。要は、恐がりの犬であることをいいことに、人慣れさせないことになったわけだ。願わくはハッピー3世のごとき役目を担わせたい。

 その吠え方と動きの様子で、妻は30mほど下手にある門扉で何が生じたのかをおおよそ推測できた。ハッピー3世が吠え、妻が聞き耳を立て、チャイムが鳴る。宅急便、新聞代の集金、あるいは速達などと分かり、妻が飛び出す。ハッピーが吠え、「牛乳屋さんヨ」とか、「おしぼり屋さんヨ」はもとより、「これはガス屋さんネ」などと分かり、勝手に出入りして用を済ませてもらえた。あるいはその吠え方で、「孝之さん、出て下さらない」もあった。