心の気象

 ユニクロがイギリスで多店舗化をはかるようだ。興味深々である。

かつて聞いたイギリス男のむしのよい夢を思い出した。イギリス風の家に住み、中国風の料理を食べ、日本人の妻をえて暮らす憧れの生き方である。

 この諺を聞いた時、食と住に触れながら、どうして衣に触れていないのかと疑問を持った。その後、衣食住はいずれも文化現象だが、なかでも衣は文化の色を一際色濃く受けるものであり、言うまでもなくイギリス風だ、と知った。

 今もこの諺は有効か。衣は今もイギリス風で当然か。理想の妻は日本人か。そして、それらは見かけとか体質や品質などを問題にしていたのか。それとも、それらを生み出した文化を問題弐していたのか。

 近頃、ユニクロの功罪を語る人が多い。功は、省けたら省くべきコストを省いて日本人の衣服感を変えたことだろう。罪は、日本の衣料業界を時代錯誤に陥れたことではないか。

 昨今、衣服を片肘張らずに着る人やこの程度で十分と考える人が増えた。無理して高いものを買ったり衣服を汚されて怒ったりする人が減った。今、大切なことは、そのためのコストの省き方ではないはずだ。これまでの企業は、繁栄すればするほど環境破壊や資源枯渇などを加速する傾向にあった。今後は、このまったく逆のベクトルが求められており、そこにはコストの問題が絡んでくる。

 コストを省きあう昨今の競争を見ていると、時代の変わり目の混乱に乗じたようなところがある。このままだと、消費の量は二倍に、金額は八掛けに、ゴミは二倍にといったような結果に結びつきかねない。今は逆に、消費量は八掛けに、消費金額は一・二倍に、そしてゴミは三掛けに、と言った市場を創出するベクトルが求められている。

 イギリスにはマークス&スペンサーというリファウンド保証で有名なチェーン百貨店がある。何時いかなる理由であれ返金にも応じる保証である。そこで問題になるのは、見かけや品質などの問題もさることながら、むしろ環境問題や人道問題などに係わる企業文化の是非である。

 わが国の衣料業界は、こうした企業文化の面で先進国を目指し、世界に冠たる企業の社会的責任を標榜し、世界に打って出る力を育むべき時ではないか。それが、日本の衣に安らぎや誇りを見いだして常用してもらう秘訣ではなかろうか。

 ギャップ社はイギリスにリファウンド保証好きで進出し、とてもうまく展開している。マークス&スペンサー社が日本に進出してくる時はリファウンド保証をつけて来るだろう。それがグローバルスタンダードだと見てはどうか。

 先のイギリスの諺に戻る。妻には日本の女をと願った男にとって都合のよい文化ではなく、今は、世界の女から夫には日本の男を、と言われるようなおおらかな文化を急いで育むべき時ではなかろうか。                                                   

                                                                                                                                                                                         
ライフスタイルコンサルタント 大垣女子短期大学学長
森 孝之
                                                          
                                                    
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