40年かけて作りあげた
循環型のエコライフガーデン

 

京都・嵯峨野にある「アイトワ」は、森孝之さんが二十歳のころから植樹をし、 週末を使って妻の小夜子さんと一緒に手入れをしてきた庭で、いまは一般に公開されています。約3000平方メートル の敷地には動植物が自生し、食卓にのぼる野菜をつくる畑があります。ごみ、生活排水、屎尿はすべて土に還元するという 循環型の庭です。自然とともに生きる生活について、うかがいました。

 

 


お金と欲望の奴隷になっていないか

孝之さんのお話。

――アイトワでの生活は、税金以外にほとんどお金がいりません。穀物は別にして、 野菜やくだものは自分たちが食べる分を作れます。屎尿は有機農法の肥料になりますし、ごみも堆肥 にしています。枯れ木や倒木などは燃料として、風呂やストーブに使います。

近代科学を否定するのではなく、 恩恵を生かすようにしています。建物にはトップライト窓をつけて省エネルギーに努め、ソーラーシステムで発電しています。 排水はプラスチックパイプのおかげで分別ができます。敷地内を通るうちに濾過され、貯水槽に貯めて、庭や畑に浸透させます。

わたしたちの暮らしを目の当たりにしたひとは、草を刈ったり、種を植えたり、なんてせわしない生き方をしているのかと感 じられるでしょう。ところが、本人たちはそんな気持ちはありません。会社員をしていたときは、すごくせかせかしていましたよ。 いつか破綻すると思いながらの生活だから、気ぜわしいんですよ。現代人は、永遠に続けられないことをやりはじめた。それが精神的 にストレスになっているのではないでしょうか。極端に言えば、早く辞めたいけど、逃げ出せない。生活を維持するためにはお金がか かるから働かなくてはいけない。けれど、お金さえあるなら、早く辞めたい。そんな生活をしていれば、せかせかしますよね。

働いている時間は〈お金の奴隷〉になっているのです。それ以外の時間は〈欲望の奴隷〉。誰よりも大きい車がほしいとか、あの 服がどうしてもほしいとか、みんな欲望のためにお金が必要なんです。それを満たしたらお金がなくなり、またお金の奴隷になって悪循環です。

 わたしは、ファッション関係の会社にも勤めていましたが、ファッションはこの悪循環を加速しているのではないか、と不安になりました。 これはいけない、と思ったのが、会社を辞めたひとつの理由ですよ。自分は違う生き方をしたいと思ったのです。

 

 

自然を泥棒しない生き方を取り戻す。

――都会型の生活は自然を破壊する、自然を泥棒する生き方です。地球上の2割のひとが資源の8割を使ってしまっている

生活とは基本的に、どんな国のひとでも、やりたいと思えばまねできる範囲のものであるべきです。自分の土地で、それぞれの民族が、その土地柄に 合った生き方を取り戻す。それで、お互いに「たまには、ああいうのもいいな」と多様性を認めながら、「やっぱり、わたしはここがよかったよ」と 思える暮らしをしたいと思います。これなら孫にも曾孫にも引き継げるという生き方に戻らないと。戻ると言っても、過去へではなく、いままでに培っ た知恵を使って、持続性のある生き方をしていくことが大事だと思います。

わたしたちのような生活そのままを、みんながまねする必要はありません。苦痛になるひともいるでしょう。でも、誰でもやりたいと思ったら できるし、学び合える。そういうことが大事だと思って、庭を一般に開放しました。まねしたいと言うひとには、「草抜きなどを手伝ってくれたら 泊まりに来ていいよ」と言っています。(孝之さん)

――いろいろなひとがいていいと思うんです。見学に来られる方を庭を案内するときも、本当に循環型の生活について聞きたくて、楽しそうだと思われる方だけ前のほうで聞いてください、と言います。わたしたちは、子どもがいませんから、知りたい方に引き継げるものが、ひとつでもあれば、という気持ちです。(小夜子さん)

――人間として持続可能な生き方をしようと思ったら、どういう方法があるか。それは自分は何者なのか、という疑問を解く生き方ではないかと思います。わたしはこれを「人間の解放」といっています、「これがわたしなんだ」という生き方をすることが、みんなに必要ではないのでしょうか。
いまの時代はそれができなくなっています。悪く言えば、自然泥棒をして欲望のとりこになっているのです。よそからとってきたもので築いた豊かな生活を絶たれることは、たいへんな恐怖なのです。でも、自分がそうだからといって、子どもも同じにしていないでしょうか。
自然のなかで起こることは、ほとんどがその場での一回限りのことです。そういうことは、机の上では教えられません。わたしたちは、人間も自然の一部なんだということを子どもたちに伝えたいと思っています。そのために、まずはアイトワのような生活をしているひとの書いた本を読んだり、実際に見学に行って、子どもに自然を体感してほしいのです。親子で農業体験ができる機会があれば、ぜひ参加してはどうでしょうか。(孝之さん)

――自然のなかで、たとえば、おとうさんが重い石をひとつ動かすのを子どもが見たとします。子どもは、自分にはできないのにすごいな、ということを感じると思うのです。それに好奇心のかたまりのようなときに自然に触れることは、とても大事なことだと思います。(小夜子さん)

――ライフ・スタイルということばがありますね。もとはアルフレッド・アドラーという心理学者が、人間が幼児期に刷り込まれ、教育されたことは、その後の一生を左右する人格につながる、といった意味で使いました。日本語に訳すと「三つ子の魂」なんですよね。ところが、日本ではお金さえあれば変えられるのがライフ・スタイルだと思われています。そうではなく、お金があろうがなかろうが、これだけは変わらない、というそのひと固有の生き方が、ライフ・スタイルなのです。
とくに、子どもたちには、親から気をつけてスローなライフ・スタイルを固めてあげることが大切ではないでしょうか。(孝之さん)

 

 

 

クレヨンハウス 月刊クーヨン(2002 9 1) 記事より抜粋

掲載にあたり
クレヨンハウスの許可をいただきました。ありがとうございました。

 

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