デザインのやり直し

 この春、大垣市女性アカデミーという市民講座の派遣で、アメリカの優良企業を訪ねる機会をえた。

 ニューハンプシャー州ではフローズンヨーグルトを生産販売しているストニーフィールド・ファーム社を六年ぶりに訪ねた。同社は家族で有機栽培農業に取り組む近隣一帯の農家を支援するために一九八八年に創業している。この5年間は年率二割〜三割増の勢いで成長し、市場を全米に広げながら年商八十六億円に育っていた。成功の一因を、私は「リサイクルを超えて」という4R運動にあると見た。リデュース、リユース、リサイクルの三つのRにリデザイン(デザインのやり直し)のRを加えた運動である。

 グリーンデザイン論を学校で講じている私は得心した。それは環境問題などを修復するデザインに違いないと見たからだ。同社は、前政権時代のエネルギー省長官筆頭補佐官ジョセフ・ロム氏のデザイン理論(拙著『「想い」を売る会社』で紹介)を採用するとかつて話していた。

 フィラデルフィアの大学街には、社会改革を願った一人の女性が一九八三年に開店したホワイト・ドッグ・カフェというレストランがある。まるで教職員のたまり場のようで、勉強会や海外視察旅行を独自企画し、店内で報告会などを開いたりしている。今年の研究テーマは麻薬。今や従業員百人、二百席、年商六億円になっていた。

 サンランシスコでは、一人の女性が二人の男性に呼びかけて一九八五年に創業したワーキング・アセット社を訪ねた。会員制で長距離電話やクレジットカードのサービスなどをしているが、売上金の一部を社会改革を目指すNGOやNPOに寄付することを使命として創業した。初年度は四百三十万円の寄付に留まったが、今や従業員百五十人で六億円の寄付が出来るまでになった。昨今は、ブッシュ政権の環境や人権への無神経さを恐れて入会する人が多く、賑わっている。

 アメリカには、二十一世紀もアメリカの世紀にしようとの夢を抱いてさまざまな人が活躍している。その共通項は、企業を社会改革の道具と位置づけ、明確な使命を掲げていることだ。消費者は、その使命を確かめて顧客となり、企業と信任関係に人っている。

 アメリカは広い、こうした新しい考え方の人や企業があるかと思うと、旧態依然たる考え方の人や企業も  ある。どこを見て学んだり安堵したりするかが私たちの課題だろう。  かつて農業文明が植民地主義に走って破綻したように、工業文明も早晩破綻するに違いない。これまでの  企業は、繁栄すればするほど環境問題や資源枯渇問題などを深刻にしてきたからだ。そのあり方に未来があ  ろうはずがない。  そうと気づいた人が経営するアメリカの企業では、デザインで壊したものはデザインで修復すべきだと考  えるようになっており、企業をあげてリデザインに取り組んでいる。

                                                                                                                                                                                         
ライフスタイルコンサルタント 大垣女子短期大学学長
森 孝之
                                                          
                                                    

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