エコロジーライフ

「本当のソロバン」

日差しが強くなると、いつも思い出すことがある。それは五年前に、太陽光発電機の関西初の民間設置者となった時のことだ。

次々と取材を受けたが、採算を度外視して設置した理由と、設置後の電力使用量の変化について、事実をなかなか理解してもらえなかったからだ。

当時は、機器が高くて補助金を得ても採算はまったく合わなかった。「なのになぜ設置したのか」との詰問である。もう一点は、設置後の消費電力は「減った」はず、との思い込みをなかなか解いてもらえなかったことだ。

太陽光発電機は電力会社と売買契約を結んで設置する。発電しない夜間はそれまで通りに電力を買い、昼間に余剰電力がでると売って月末に清算する。

だから記者は、設置後の電力使用量は減って当然と見たようで、「増えた」という私を疑ってかかった。現実に、後に続いた設置者は皆、家族ぐるみで節電に努力し、余剰電力の売上金を増やしているという。

妻も私も電気の消し忘れなどもするが、設置後はあまり節電に努めていない。だから増えたに違いないと考えたのだが、信じてもらえない。「奥さんを呼んでほしい」と迫る記者までいた。

経緯が分からないまま、妻は動き始めたビデオカメラの前に座らされ、同じ質問を受けた。「増えましたよ。だって、罪悪感がなくなりましたから」

もう一点は、採算が合わない機器を設置した理由である。

思い余って次のように答えた。「わが家では、車は軽四輪、飼っている犬は雑種です。逆に、太陽光発電機は高くても欲しかった。それがわが家流の贅沢です」

これらの回答はどの報道機関にも採用されなかった。

もちろん、太陽光発電機が耐用年数内に生み出す総エネルギー量は、機械の生産や設置などに要する総エネルギー量を上回っている、と聞いた上で設置した。

神戸新聞 コラム『随想』 連載より1999年6月21日分

ライフスタイルコンサルタント 大垣女子短期大学学長
森 孝之


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