ある試み
 

 確実に物忘れが進んでいる。この日は朝刊で、医学生理学のノーベル賞が「脳内GPS」の発見者に与えられたと知っており、なぜか「何とかしなければ」と考えている。それがキッカケか、在りし日の感激を思い出した。それは、まずロンドンタクシーのある運転手に驚かされた体験だ。その後、ロンドンタクシーの運転手は、加齢によって物忘れを進行させるどころか、むしろ活性化させている、と聞かされており、さもありなんとヒザを打った思い出だ。

 台風18号の被害は、ランタナを育てていた大きな鉢が1つこまかく割れたことぐらい(倒れた農作物などは立て直せば済む)だった。この鉢をさらに細かく割って、哲学の穴に放り込むことから、この日は庭仕事を始めている。次いで、カマを手に、剪定バサミをポケットに入れて、庭の点検に回った。

 今にも「目の敵」が種を落としそういなっていた。カマを置いて、目の敵を抜き、哲学の穴まで捨てに行き、捨てた。その途中で、水が切れた鉢植えが目に留まる。そしてまた、と次々と手を出したくなる作業に気付かされ、いそしむ。このような庭仕事はとても楽しい。問題は、かくしてカマをどこに置いたのかさえ忘れてしまったことだ。

 そこで、逆に「物忘れをしかねないに動き方」をあえてすることで、加齢による「物忘れ」の進行を食い止める策があるのではないか、と奇妙なことを思い付き、実行に移している。この試みがどのような結果に結び付くのか興味津々だ。