パタゴニアの極寒 |
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NHK-TV番組『風と虹の大地』で、ヤーカン族を初めて知った。『マッサンとエリー』で「鴨井の大将」役を演じる堤真一が案内する番組だった。 印象に残ったのは、まず南米の最南端・パタゴニアで、氷山もそびえる極寒の真冬も素っ裸で生きていたヤーカン族。他に、彼らが神の住む山としてあがめる「フィッツ・ロイ」。そしてこの神の山(このシャルテン)を眺めながら堤真一がポツリポツリと語った言葉。実存感と実感に満ちあふれていた。 ヤーカン族は、白人が持ち込んだ伝染病で人口は激減。今や純血は老婆1人とか。この老婆を堤真一は訪ねている。この民族の研究はどこまで進んでいるのか、と強く興味を抱かされた。と言うのは、ヤーカン族は白人が入植するまで、海獣(アザラシだったと記憶)の油を体に塗っただけで、とても粗末な小屋で極寒をしのげたという。 アフリカで発生した人類は、何万年もかけてパタゴニアまでたどり着いている。その折の裸の姿を、つい最近までヤーカン族は保っていたのではないか。アザラシなどを狩っていたわけだから、その皮を、家屋や衣服にどうして用いなかったのか、不思議だ。もし海獣の皮をいったんそのように用い始めていたとしたら、再び冬を裸で過ごすことはなかっただろう。 かつて私は「ヒトはなぜ衣服を着たのか」ということにとても興味を抱き、当時の通説とは異なる結論を導き出していたからだ。もう一度生まれ変われるなら研究者になりたい、と思った。そう思いながら、一月ほど前の妻の悩みと、火曜日に読んだ知友の一書を思い出している。 妻の悩みとは、アイトワの常連客の親切から始まっている。とても親しい間柄のお一人だが、金太のことでご心配をかけた。あるとても冷え込んだ日にみえて、今や一頭だけになった老犬・金太に心を砕いてくださった。それは犬の飼い方について、私の考え方とは相反する意見であり、どう答えてよいか妻を困らせた。 かつてこの人は、団地では犬を飼えないからといって、金太を子どもさんの散歩相手にしてくださった。おかげで金太は、愛宕山にも登ったし、保津川でボートにも乗せてもらっている。そのお子さんは、今や大学生になっており、海外留学中だ。 提案は、金太に胴衣を着せてやり、小屋に温かい敷物をしいてやれないか、などだった。私は、犬を飼うなら捨て犬を拾いあげ、できれば放し飼いにしたい。教え込むことは「お座り」と「待て」で十分と考えている。犬小屋は落葉樹の木陰に据えたいし、出入り口は東向きにしたい。そして、なるべく生きた土を踏ませたい。生きた土とは、バクテリヤなどがたくさん棲みついており、フンコロガシがすぐに現れるような土だ。餌は、できれば私たち家族の残飯を、塩分を薄めて 与えたい。もちろん、残飯を出しやすい生き方をしていないから、現実の餌はドッグフードを多用している。また、放し飼いの出来ない事情が生じている。 私は加齢とともに寒がりになっており、この人の提案は心にとても響いた。どうしたものか、と考えたが、従来の方針を踏襲することにした。そしてこの度、ヤーカン族を知り、なぜか心が晴れた。厳冬も裸で過ごしていたし、その住居は実に粗末に見えたからだ。 知友の一書は火曜日に読んだ。そこにはソ連時代のコーカサス(長寿地域)の人々の暮らしが紹介されていた。老齢までよく働き、夜眠っている間に死に、認知症者がいないような生活だという。 |
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素っ裸で生きていたヤーカン族 |
フィッツ・ロイ |
粗末な小屋で極寒をしのげたという |
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