義妹が稲荷ずしを、妻が豚汁を用意

 

 この一帯の観光客は秋に集中する。だから、この日は学生と一緒に手作り料理を賞味することができる運びとなった。また、焚き火は、真ッ昼間は控え、10時までと、夕刻の4時以降の2度に分けることになった。

 おかげでこの日も、学生に、大鉢仕立ての2つのアリストロメリヤを地に下ろしてもらったが、とても良い学習材料ができている。コンニャク芋が植わっていたところを避けて地に下ろすところを決めたつもりだが、まさにその場であったわけ。

 大きなイモが傷だらけになって掘り出されていた。こうした失策は、この庭で学生に習得してもらいたい心を、体験を通して授ける上で恰好の教材、と私は見ている。

 さて、当地の賑わいの問題だ。20年ほど前までは、ピークの日は400人近くも来店。その前後の日は、その半数程度で、来店客数をグラフで表せば、ピークの日を頂上に槍ヶ岳のようになった。そのピークの日は、11月23日の旗日か、その前後の日で、今年で言えば22日の日曜日(翌日も休日という日の前日)であた。ところがその後、大きく様子が変わっている。

 秋がピークであることに変わりはないが、また1週間でならせば同数程度の入店者数になるようだが、なだらかな山の稜線のようなグラフを描く人出になった。だが妻は、人出の様子が変った後も、ピークの日を前もって見定め、アイトワの記念日のごとくに扱って来た。

 前夜から用意し始め、当日の朝一番にかやくご飯を炊き、おにぎりを作る。この日は全員参加で、順次手隙を見計らって腹に放り込んでもらう。最後につまめた人は午後4時になった、とむしろ自慢げであった。それが、この店に関わっている人たちを勇気づけるようだった。

 何せ経営的に、喫茶店単独で見ると赤字だから、この日の「ヤッタ」とでもいった充実感が、店に関わっている人全員に安心感を抱いてもらえ、存在意義を噛みしめ、誇りを感じてもらうためのいわば源泉と言った良いだろう。

 その日に、今年は佛教大生だけでなく、獣害防除の「師匠に」と願う人を迎えることになり、妻は義妹と計らったのだろう。この人からの最初の電話を妻が3日前に受けており、「たしか、春の野を連想するようなお名前でした」との好印象もよかったようだ。「私の昼食を、いつもと違い、2人分にすればよいだけだ」と言ったのだが、「そのようなわけにはいかない」と考えたのだろうが、それがヨカッタ。

 義妹が10数人分の稲荷ずしを用意し、妻が豚汁を用意することになった。おかげで、学生を交えた歓談はおおいに弾んだ。

 この日、私は7時から庭に出た。まず、囲炉裏場から取り除いてあった無煙炭化器を運び込み、焚火を始め、観光客が増える10時までに灰や燠(おき)を造り、いつでも焼き芋作りができるように準備を始めた。そのかいがあって、午後4時から焚火を再開無事に賞味

 「師匠に」と願う角出さんは、焚火の準備を始めた直後に軽トラで到着。妻が電話で「すみれ」さんと聞きとり、好印象を抱いた人だ。それが稲荷ずしと豚汁の元かもしれない。要は。「アイトワ」を「あいとう」と聞き憶える人がままあるのと似たような間違いだった。

 昨今は獣害被害が問題になっている。京都市では、シカを1頭規定通りに仕留め、申告すれば、2万2千円の褒賞金を出す、という。だから、何頭も仕留め、申告し、後はユンボで穴を掘り、埋めてしまっているらしい。私は、「バチ当たりメ」とまでは言わないが、反対だ。「先が見えていない」いや「見ていない」とみて銃による狩猟は止め、ワナに切り替えた。そのワナも、手作りにした。直系10cmほどの輪の中に足を踏み入らないとかからないワナを手作りした。そしてかかると暴れる相手と対峙し、殺し、直ちに解体。食べきったり、食べきってもらえるように配ったりしている。ケモノにキチンと向き合っている、と見た。

 かつて私は、上品とは何か、と考えさせられたことがあった。その頃から、世の中はこのままでは収まらなくなる、と確信するようになっている。

 「この人を師匠に!」と改めて思い直した。同時に、私が猫マタギになった時の自分を振り返った。たしか、小学4年の時だった。父は不治と言われた病で病床にあった。その父に、飼わされることになった(もちろん私が 小学1年の時にヒヨコを飼いたいとねだり、その許可条件を受け入れただけのことだが)鶏を、後年絞め役まで母から仰せつかり、実行した。

 その日から私は、魚を食べても「猫マタギ」と言われるほど、丁寧に食べつくすようになった。

 角出さんは、心優しい人だから、銃による狩猟を止め、ワナに切り替え、ケモノとキチンと向き合うようになったのか、「あるいは」と考えたが、確かめずじまいになった。

 


大きなイモが傷だらけになって掘り出されていた


午後4時から焚火を再開

無事に賞味

ワナを手作りした