『アイトワ 12節』

 

 網田さんの助言で始まった冊子造りプロジェクト。当週をもって校了、と言えそうな段階に達した。その内容には、「アイトワを創り出した想い」や「未来の夢」まで盛り込めた。また、その名称も『アイトワ 12節』と決まった。

 実は、網田さんの助言をえた当初、私はとても慌てた。慌てた、というより、ガッカリした、と言った方がよさそうだ。なぜなら、これまでの努力は逆効果になっていたようだ、と感じたからだ。このままでは、今後の努力のしがいも半減である、とさえ思った。

 私は私なりに、なんとしても若者に夢や希望、あるいは勇気を得てもらいたい、自立する気概に火をつけてもらいたい、と願い続けて来た。それは、私の体験から出た気持ちだった。私自身が求めながら得られなかったものを、あってほしい、と願い続けて来た。

 後に「一隅を照らす、これ国宝」という言葉に触れ、「これだっ」と思ったこともある。ウサギとカメではないが、確かな目標を見定め、地道にやろう。その気にさえなれば(できる)と、信じてもらえることを、じみちにやろう。

 しかし、これが、逆効果になっていたようだ、とさえ感じた。この心配は、次の網田さんの話から始まっている。

 網田さんは、やる気に火をつけてもらおうと願って案内した人がある。だが「これは金持ちや」との一言を吐き、聴く耳を持たなくなったという。「金持ちだから出来たんだ」あるいは「手に入れられた庭だ」との先入観を固めてしまい、問答無用になった、という。

 かつての私なら一笑に付したりしていた、と思う。だが、この度は、昨今の社会情勢を振り返りながら、思い直した。昨今は、出来上がったモノを見て、その制作過程や用いられた道具や技などを想像する人は少ない時代かもし れない。

 ほとんどの人は、出来上がったモノを見て、欲しいか欲しくないか、あるいは好きか嫌いかなどの反応をしてしまいがちな社会だ。ならば、まだ間に合う、と思った。

 そのココロには、言葉や文字だけで迫るのでは不十分だろう。ビジュアルを用意すべきだろうと思った。私は、地球の姿を目の当たりにした時のことを思い出した。



この庭は、
お金持ちだから造れた庭だと思う人がいるが、
それは大違いだ。
この庭を創ったおかげで、
私は豊かさを
手に入れることができた。

There are those who assume that this garden was created by wealth.
That could not be farther from the truth.
We are blessed with richness and abundance thanks to this garden.



 途、先ず切り出し、あとは12枚の写真とそのコメントが続く冊子つくりが始った。さらに、「アイトワを創り始めたわけ」や、追い求めている「未来の夢」にも触れることにした。そしてこのたび、いよいよ「冊子に題を」と考えるに至った。

 これはひとえにプロジェクトを組んだチームのおかげと、この間にアイトワを訪れてくださった人たちからもらったヒントや励ましのおかげであった、と思う。

 「冊子に題を」と、思い付き、8つばかり案を思案し、用意した。妻は「節」を選んだ。それはどうしてか、と思っていると、「節句という言葉があるでしょう」と付け足した。「なるほど」と私は得心。

 辞書を片手に喜田さんに相談し、リズさんに英訳を頼んだ。以下、リズさんの許可を得ずに私信を引用するが、それほど私にとって、この交信は感じるところが多かった。


夕べ、冊子「アイトワの小史」に題をつけ、表紙に載せることを思いつきました。色いろと案をねり、検討した結果、「アイトワ 12節」が残りました。多忙な頃と思いますが、英訳を急ぎお願いします。
「節」を選んだ理由は、次のような意味合いを持っているからです。
1、「その節には」などと、「ある事柄が行われる時」
2、「節操」などと、「自分の信念を守り続けること」
3、「節度」など、「ほど」とか「ほどあい」を意味したり、
4、「区切り」を意味したりします。
「節句」という成句もあって、これは、「年中行事を行う日の内、特に重要な日」を意味します。


 と言ったようなメールにまとめ、よろしくお願いします、とメールした。翌日、おおよそ次のような返信があった。


一通りアイトワの小史の英文が完成し、ホッとしてついたところに頭が痛くなるような問題が出されました。「アイトワの小史」の題を「アイトワ12節」にされるのですね。
 一晩考えた結果、「Aightowa -- Twelve Views」を提案します。
 「節」というのは、かなり幅広い意味と意味合いを持ちますが、それぞれの意味やニュアンスに当たる英語はまた違った表現になります。そんなわけで、辞書に出てくる定番の言葉を避けることにしました。
  小史の12章、12の節目ならびに12の立場あるいは味方、そしてきれいな景色を展望するという意味を含めて Views がいいかなと考えています。
 それから、もう一つの要素を考えました。日本のことを少し知っている人なら、日本の昔の美術界を代表する広重の富士山の三十六景の版画は見たことがあるでしょう。「富士山の三十六景」はThirty-six Views of Mt. Fujiという英語になっています。



躊躇することなく、私は「Aightowa -- Twelve Views」に飛びついた。