「追っかけて北九州」
「あら、あなた、原稿の催促に来たの?」
空港で、上遠恵子さんに言われて、言葉に詰まってしまう。
いえいえ、書いて頂けないのでしたら、自分が書くまでです……。一度お会い
して、その場で執筆をお願いしたきりでしたので、ちゃんとお話がしたくて……
これが本音だった。
上遠さんも立て続けに講演会が入って、時間に追われる日々を過ごされている
ようだった。それでも、「自然計画」は、ちゃんと気に留めてくれており、カー
ドを講演会で大量に配ってくれているとのことだった。 ありがたいことこの上
ない。
さて、最近、上遠恵子さんや、子安美知子さんなど、自分の母親よりひとまわ
り近く年上の女性と、仕事でやり取りさせていただく機会が多い。
このお二人の共通項は、老いというものをまったく感じさせないことである。人
生の晩年にさしかかり、目先の欲得の世界をとっくに卒業されて、次の世代のた
めに自分の使命を果たそうとされている姿勢が感じられので、こちらも自然に素
直な態度になる。
北九州の婦人グループが主催する上遠さんの講演会に同行させていただき、それ
が終わった後、一向はホテルに戻って近くの焼き鳥屋さんの二階に陣取った。ち
ょうど小倉は祭りの日で、おもては賑やかである。
人生の大半を田園調布で暮らしている上遠さんは、「上品な人の見本」といいた
くなるような人である。常ににこやかな顔をして、屈託がない。
上遠さんがおっしゃるには、ご自身が主演する朗読ドキュメンタリー「センス・
オブ・ワンダー」の上映がはじまり、本人に、様々な感想が寄せられるそうだ。
それは、決して好意的な感想ばかりではないようである。
「この年になって、映画なんかに出ちゃって色んなこと言われると、どうしてこ
んな事になっちゃったんだろうなんて思うんだけど、まあ、これも宿命かなとも
思って受けとめてるのよ。」
詳しくは知らないが、レイチェル・カーソンと上遠恵子さんの人生には、とても
共通項が多いようである。上遠さんはそれに強い縁を感じ取って、カーソンを語
り継ぐことをライフ・ワークとされた。
「作品に向けられる感想は、殆ど本人の内面をさらけ出しているだけなんで、そ
んなに気にする必要ないですよ。」と私は返しながらも、少し気の毒に感じる。
確かに、この「センス・オブ・ワンダー」という映画、一筋縄にはいかない映画
であるとは私も思った。
映画では、日本でいえば、ちょうど三陸海岸のようなところの、それ程珍しくも
ない自然が延々と映し出される。そして、役者でもプロのナレーターでもない上
遠さんが、そこにぽつんと立つカーソンの別荘のまわりを、散策しながらエッセ
イを朗読する。
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