「医療の話」01/08/31

ヨーロッパに行って視察したものをざっと上げると、シュタイナー学校が4件、老人ホーム2件、治癒教育施設2件、その他、製薬会社や銀行などなどで、本当に矢継ぎ早に色々なところを見せていただいたが、特に病院だけでも3件もまわることとなった。スウェーデンのヤーナにあるヴィダール・クリニック、スイスにあるイタ・ヴェーグマン・クリニック、そしてがん患者専門のルカス・クリニックである。ヴィダール・クリニックは、昨年アエラで紹介されている。

シュタイナーの医療は、ホメオパティーと言われ、外科手術など西洋医学的な手法を需要しながらも、自然の素材から作った薬をほどこし、絵を書いたり、オイリュトミー(西洋版の太極拳というのが一番端的な説明のようだ)を踊ったりしながら、メンタルな部分のケアをとても重要視する。もちろん、医者と患者は一対一のコミュニケーションをとても大事にする。食事も、患者さん達がきちんと洋服を着て、食堂に集まってテーブルを囲む。建物も、廊下が緩やかなカーブを描いたり、病室の色の効果なども考慮されたりしている。霊安室にも何度か通されたが、穏やかで神聖な空気がある。死んでから3日間はそこにおかれて、誰でも入ってきて、お別れを言えることになっている。我々がもつ病院のイメージとはかなりかけ離れている。違いをはっきりと説明するのは難しいが、少なくとも、とても患者さんを大事にしているとは感じた。

また、シュタイナーの医療の中で、治療薬として有名なのは、ヤドリギを材料に作られたイスカドールという抗がん剤だ。これは、ヤドリギとガン細胞の繁殖のしかたが似ていることから、シュタイナーがインスピレーションを得て作り始めたものらしい。病院の庭に出て、ヤドリギを眺めていると、確かに木のがん細胞のように見えて、なる程と思えてくる。この薬は、ドイツ、フランス、スイスでは医薬品として認可されて普及しているが、日本では理解のある医師が今のところいないなので、薬として出回る目処はまったくないようだ。

「ねえ、佐々木さん、いっその事、あなたが今から勉強して医者にならない?まだ若いんだし…….」子安さんに言われる。
「先生、それ、勘弁して下さいよ。養う家族がいるんですから……。」

さて、不思議なもので、こういうまったく畑違いの世界に接して、当面後回しにするしかないと思っていたのだが、日本に戻ると、話を前に進めさせるような情報が、向こうから飛び込んでくる。たまたま、知人の主催する小規模な政策の勉強会に誘われて出席してきたのだが、行ってみると、今回のテーマは、医療であった。

勉強会で、レクチャーをしてくれた方は、イギリスのホメオパシーを扱う病院で研修を受けたことのある医師で、特に統合医療というコンセプトを中心に世界の様子と日本の現状を説明されていた。

その方によると、医学界で、初めて心と体を分離して、体のみ扱うこととしたのは、ギリシャ時代のヒポクラテスだったらしいが、今では、その限界が広く認識され、WHOまでが、肉体と心、精神と社会までを統合した医療の必要性を唱えているらしい。イギリスでは、150年の歴史をもつホメオパシーの病院があり、協会の会長はエリザベス女王が務めているとのことだった。

ひるがえって日本の状況はというと、なかなか硬直化したもののようだ。「歯科医が増えると虫歯が増える」だとか、「死の直前には、家族は病室から外に出されて、いろいろな延命療法が試みられる。その為、家族は臨終の場に居合わせる事が出来ない上に、その死の直前の治療だけで、患者にかかる医療費は一挙に跳ね上がる。」というのが現場の実態だと言う。これは決して金儲けの為にやっているというのではなく、兎に角、少しでも長く生きることが絶対的な善であるという価値観の中では、まったくの善意でなされる。

勉強会には、遺伝子研究や代替医療の権威の方も参加していて、こうしたレクチャーを受けて、ディスカッションはどんどんと深まっていった。「人間の精神とは何か?死とは?命とは?」といった哲学的な話題に花が咲き、深く考えさせられることとなる。

さて、またまた、まとめるのが難しくなってきた。

今のように機械仕掛けで薬漬けの医療のままでいいと心から思う人は、治療する側もされる側も、決して多くはないのだろうと思う。だけど、きっと、医師の本音はこんなところにあるんだろう。そう、私と一緒だ。「養う家族がいるんで………。」




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